愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
第1話
 すぐには反応できなかった。

 告げられた言葉をかみ砕くのに、数十秒を要していたと思う。

 ただただぼうっと《彼》を見つめていれば、彼は嫌そうに眉を顰めた。

「なんだ、驚きすぎて言葉が出ないのか?」

 そう問いかけられても、私は上手く反応が示せなかった。

 ぎゅっと手を握って、必死に脳内を動かす。……言葉をかみ砕けても、理解はできない。

「なら、もう一度言ってやる。――俺は、お前との婚約を破棄する!」

 今度は高らかな宣言だった。

 ……聞き間違いとか、そういう風に誤魔化せるようなものじゃない。

(……婚約、破棄)

 目を伏せて、ぎゅっと唇を引き結んだ。

 静まり返った周囲の空気が、肌にまとわりついているようで気持ちが悪い。あと、周囲の人たちが私を見てこそこそと話しているのも、気持ちが悪い。

 耳障りな言葉たちが、耳に届く。……あぁ、嫌だ。

「どう、してで……ございます、か」

 震える声を必死に抑え込んで、私は婚約者だった彼を見てそう問いかける。

 彼は、にんまりと口元を緩めている。その笑みは、私がこの世で大嫌いだと言い切れる笑みだ。

< 1 / 143 >

この作品をシェア

pagetop