愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
「そんなもの簡単だ。お前のような真面目が取り柄なだけの女など、俺には相応しくない」
「……ですが」
「言っておくが、俺に縋ろうとも無駄だ。俺の心には、お前じゃない別の女がいる」

 私の言葉など聞くつもりはないらしい彼は、私のほうに近寄って私を見下ろす。

 幾分も高い背丈。威圧されるように見下ろされれば、私の身体は自然と縮こまったような気がした。

「大体、お前のような真面目しか取り柄のない地味な女が、俺の婚約者でいられたこと自体を感謝してほしい」

 その言葉に、唇を噛んだ。

「もう少し愛想がいいとか、容姿が美しいとか。そういう目に見えて秀でているものが欲しい」
「……そ、んなの」

 声が震えている。確かに私の容姿は地味かもしれない。愛想もないかもしれない。

 でも、こんなのあんまりじゃないか。

(婚約破棄を告げるならば、せめて人のいないところでひっそりと告げてほしかった……)

 こんな大衆の面前でするようなことじゃない。

 まぁ、彼の目的は私に恥をかかせることだろうから、この場を選んだのだろうが。

 いつだって彼は、私のことを邪険にし、手酷くあしらう。

「というわけだ。お前はもうさっさと立ち去れ。……この場に残られるだけ、不快なんだよ」

 元婚約者が、そう言葉を投げ捨てて踵を返す。……私は、反応することが出来ない。

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