α様は毒甘な恋がしたい


 視線を足元に逃がしてはみたものの、肩の震えは止まらない。

 私の斜め前に立っている戒璃くんの怒り顔を、まじまじ見る勇気なんて湧き出てこなくて

 ととと、とりあえず謝らなきゃ!と、気持ちだけが焦りだす。


「ごっ、ごめんなさい」


 戒璃くんのブレザーに、顔なんかうずめちゃって。


「ねぇ?」


 声、低っ。

 絶対に私のことを怒ってるよ。


「アルファのフェロモンを嗅ぎたくなっちゃったの? 俺に隠れて」


 えっと……

 戒璃くんのブレザーを受け取ったときは、自制心が働いたんだよ。

 確実に。


 推しのものだから、大事に持っていなくちゃ!

 ファンとして模範になる行動を、心掛けていたはずだったんだけど……


 だんだん、ブレザーから放たれる香りが気になって。

 大好きな番のフェロモンを堪能したいって、心がうずきだしちゃって。


 気づいたらやってしまっていたんです。

 顔をすりすり……って。

 結構長いこと……。

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