つれない男女のウラの顔
episode6
── やっぱり俺には、そういうのは向いてないんだよ。
あれから彼の言葉をずっと反芻している。
私と同じですね、気が合いますね、で終わる話なのに、どうして傷付いている自分がいるのだろう。
私は彼に何を期待しているの?最近自分がよく分からない。
…それにしても、一ノ瀬さん綺麗な人だったなあ。
(…食欲が湧かない)
成瀬さんの部屋でなかなか眠れなかったから寝不足なはずなのに、昨夜はなかなか寝付けなかった。
そのせいか今朝も目覚めが悪く、何もやる気が起きなくて、お弁当を作る元気もなかった。
そのため、今日は久しぶりに食堂へ来て日替わり定食を頼んでみたけど、食べ物がなかなか喉を通らない。
こんな日に限ってメインはアジフライとコロッケ。揚げ物ばっかりで、余計に食欲を失ってしまう。
このままではだめだ。一旦成瀬さんのことを考えるのはやめよう。そう思っても、付け合わせのトマトがこっちを見てくる。すると赤面した成瀬さんが頭に浮かんで、そのあと一ノ瀬さんを思い出す。さっきからこのルーティン。
…って、トマトを先に食べてしまえばいい話なんだけど。
「花梨さん、お隣よろしいですか?」
真っ赤なトマトを掴む直前、聞き慣れた明るい声が鼓膜を揺らした。ゆっくりと視線を向けると「どうもー」とわざとらしい笑みを浮かべるマイコと視線が重なった。
「…八田さんお疲れ様です。お隣どうぞ」
「お疲れ様です、花梨さん。では遠慮なく失礼しますね」
隣に腰を下ろしたマイコは、私と同じ日替わり定食をテーブルに置き、さっそく「いただきます」と手を合わせる。
「京香ちゃん、浮かない顔をしているように見えたけど、何か悩みでもあるのかな?」
ニヤニヤしているマイコの顔を見て、成瀬さんのことを考えていたのがバレたのかと思った。
平静を装いながら「何もないよ」とはぐらかすと、すかさず「私は京香に聞きたいことがあります」と返してきたマイコの声のトーンが少し低くなったから、思わず息を飲んだ。
「なに、どうしたの」
「噂で聞いたんだけど、京香に彼氏がいるって本当?」