つれない男女のウラの顔

episode7



レザー調のシートに、ムスクの香り。心地よい揺れが、私の心を安心させてくれる。

到着するまで寝ていればいいと言われたけれど、この状況で眠れるわけがなく。車に揺られながら、昔のことを思い出してみたり両親に伝えたいことを頭の中で整理したりしていた。

時折成瀬さんを横目で盗み見て見惚れたりもした。仕事で疲れている中、長距離を運転するのは大変なはずなのに、それを感じさせないくらいハンドル操作はスムーズでブレーキは滑らか。運転が上手だから安心して乗っていられた。

ミラーを確認する横顔はかっこよくてずっと見ていられるし、いまハンドルを握っている手は、さっきまで私の手を優しく包み込んでくれていたのかと思うと、顔が熱くなった。


「眠れないのか?」


私を横目で一瞥した彼が問いかけてくる。その目は優しく細められていて、無愛想キャラからは程遠い。

そんな愛しいものを見るような目で、こっちを見ないでほしい。まるで恋人といるような気持ちになってしまうから。まぁ成瀬さんが私の恋人になるなんて、絶対にありえない話なんだけど。

成瀬さんの恋人になる人は、きっと幸せになれるだろうな。といっても、成瀬さんは恋愛がしたいとは思わないと言っていたし、一生独身でいる覚悟もあるみたいだから、この先恋人ができることはないのかもしれないけれど。

一ノ瀬さんのことも、そういう目で見ていたのかな……いやいや、今は彼女のことを考えるのはやめよう。


「…眠れないみたいです」

「まぁ顔を見るまでは落ち着けないよな」

「それもありますけど、成瀬さんが運転してくださっているのに、私だけ寝るのはどうかと…」

「残念だな。せっかく寝顔を見てやろうと思ったのに」

「…よそ見はやめてください」


私が唇を尖らせると、成瀬さんが悪戯っぽく笑う。その笑顔に胸がきゅっとなって、慌てて視線を窓の外に移した。

成瀬さんのことを“こちらが冗談を言ってもクスリとも笑わない塩対応無愛想キャラ”だと言った人は誰なの。全然話が違うじゃない。

でもこっちの成瀬さんも素敵。その笑顔は反則だ。しかも赤面する裏の顔まで持っているのだから、ギャップが激しい。

ああ、もう。頭の中がどんどん成瀬さんで埋まっていくのは、一体どうすればいいの。
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