つれない男女のウラの顔

急いで玄関に向かい、花梨が部屋から出てくるのを待ち構える。程なくして隣の部屋のドアがゆっくりと開くと、そこから現れた彼女の目は真っ赤に腫れていた。

俺と視線が重なった瞬間、その目からポロポロと涙がこぼれ落ちる。思わず抱きしめたい衝動に駆られたけれど、なんとか耐えた。


女の涙は苦手だった。女の武器としてわざと泣くやつがいるからだ。大学生の頃、俺に失望した女が目の前で泣いたことがあったが、何も感じなかったのを覚えている。感情が死んでいるとよく言われるが、あながち間違いじゃないと思ってた。

けれど彼女の涙を見て、酷く心が揺れた。小さく震える手を見て、その手に触れずにはいられなかった。

相手が花梨でなければ、恐らくこんなことはしない。それどこか、親御さんのところへ連れて行きたいとも思わなかっただろう。

もしかしたら大きなお世話かもしれない。それでも少しでも花梨の力になりたかった。そばにいたい、支えたいと思った。


不謹慎かもしれないけれど、一緒にいられる時間が増えたことが嬉しかった。

その泣き顔も、不安げな表情も、これから先 全部俺だけに見せてくれたらいいのに。



そんなことを俺が考えているって知ったら、花梨はどう思うだろう。

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