つれない男女のウラの顔

この部屋に来る前、成瀬さんは目を見て話す練習をしようと言った。

けれど実際は、手を繋いだまま静かに映画鑑賞をしている。

横並びに座っているため目は滅多に合わないし、勿論会話もない。

そのせいかだんだんと緊張も解れ、次第に睡魔が襲ってきた。

昼間にたくさん寝たはずなのにおかしいな。もっと成瀬さんと一緒にいる時間を楽しみたいのに、とにかく瞼が重い。

一度立ち上がって眠気を飛ばそうかとも考えたけど、この手を離したくはなかった。成瀬さんが解かない限り、この熱を感じていたいから。


かくん、と頭が揺れてハッとした。それに気づいた彼に「眠いか?」と問われ、首を小さく横に振る。


「まだ特訓は終わってません…」

「意外とスパルタだな」


ただ成瀬さんとの時間を無駄にしたくないだけです。とは言えないけれど、代わりに彼の手を強く握った。


「寄りかかっていいぞ」


お言葉に甘えて成瀬さんに体を預けると、柔軟剤の匂いがふわっと鼻先を掠めた。

この匂い、好きだ。成瀬さんの服を着た時のことを思い出して、胸があたたかくなるから。

成瀬さんの匂いは落ち着く。たくさん助けてもらったことや、今までにもらった言葉が蘇ってきて、胸がじんとして、自然と目頭が熱くなる。

本当に素敵な人。




───成瀬さん、大好き。

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