つれない男女のウラの顔
目の前の彼は、手の甲を口に当て、俯き気味で私から目を逸らしていて。
その顔は、普段の彼からは想像出来ないほど真赤く染まっていた。
顔だけでなく耳まで真っ赤。まるで茹でダコ。
………ものすっっごい既視感。
「……成瀬さん、その顔…」
凝視したまま思わず呟くと、彼は「見すぎ」と恥ずかしそうにポツリと呟いた。
「あ、すみません……」
「………」
熱い。私の顔も最高に熱い。
目の前の人と張り合えるくらい、私も赤面していると思う。
いつもの私なら、今すぐにでもこの場から立ち去っていると思う。けれど今は、自分のことより彼の“裏の顔”を知ってしまった衝撃の方が大きくて、咄嗟に逃げることが出来なかった。
玄関先で男女ふたりが、顔を真っ赤にして無言のまま突っ立っている。傍から見ると、かなり怪しい。
もしかして、ここだけ異常に気温が高いとか?若しくは成瀬さん家のクーラーが壊れてるとか、実は彼は天然で間違えて暖房をつけちゃってるとか。
うん、そんなわけないですよね。とりあえずこの変な空気をどうにかしたいですね。
「…私達、リンゴみたいで可愛いですね……なんちゃって」
「……」
「………では、そろそろ失礼しますね…」
──バタン。
や っ て し ま っ た。