つれない男女のウラの顔

「あ…そっか、こっちに来る用事があったんだっけ。そのついでに…」

「ついででもねえよ」

「……」


何となく、この話題は早く終わらせた方がいいような気がした。けれど私の言葉を遮るように口を開いた匠海くんの表情はやはり真剣で、思わず口を噤んだ。


「本当は京香に会うためだけに来た。その約束(・・)を忘れられなかったのは、おばさんじゃなくて俺の方だ」

「え…?」


心臓が激しく波打つ。真っ直ぐ私を見据える匠海くんから、目が離せない。


「俺はあの時から……ずっと京香のことが好きだった」

「……」

「それを伝えるために、ここに来た」


ドクン、と心臓が大きく跳ねた。

予想外の告白に、頭が真っ白になった。


少しだけ表情が柔らかくなった匠海くんが「やっと言えた」と呟いた。それと同時に先程注文した料理が運ばれてきて、ハッと我に返った。

昔ながらの、つるんとした卵の上にケチャップが乗ったオムライス。ステーキ皿の上に盛られている、熱々のナポリタン。

どちらも美味しそうな料理ばかりだけれど、今の私はそれどころでなかった。

目の前で湯気を立てているナポリタンには目がいかない。理解が追いつかず、匠海くんを見つめたまま固まっている。


匠海くんが私を好き?あの時(・・・)からって、いつのこと?
もし結婚の約束をした時のことだとしたら、まだ未就学児の幼い頃の話だよ?

私自身、親からその約束のことをよく聞かされていたから知っているだけで、その時の記憶は殆どない。

それなのに、その時から私を好きだったなんて本当?……いや、そんなはずはない。だって…


「匠海くん、他の人と付き合ってたよね」


「彼女が出来た!」と、匠海くんから報告を受けた回数は一度ではない。二度…いや三度はあった気がする。

だから私達の間に恋愛感情が生まれることなんてないと思ってた。私達は、兄妹のような幼なじみだとずっと思ってたから。

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