つれない男女のウラの顔
「こんな雨の中どこに行くつもりだ」
顔を上げなくても分かる。私はいま、成瀬さんの腕の中にいる。ずっと求めていたその匂いに目頭が熱くなって、縋るように彼の背中に手を伸ばした。
「花梨…?」
私が鼻を啜りながら抱き締め返したせいか、成瀬さんは戸惑いを孕んだ声を落とす。ゆっくりと顔を上げると、心配そうに私を見つめる彼と視線が重なった。
私が雷に怯えていると思っているのだろうか。私達がこうしている間も雨は激しく降っていて、雷が鳴り続けているから。
でも私が泣きそうな理由は雷ではない。成瀬さんに会えたことと、この熱を感じられたことに安堵したからだ。
だけどこの気持ちを伝えるまでは泣けない。泣く前に、やらなきゃいけないことがあるから。
「成瀬さんはどうしてここに…?」
震える声でなんとか言葉を紡いだ。
「…花梨を、探しにいっていた」
「私を…?」
「けど、雨が降り出しそうだったから車で行動しようと思って一旦戻ってきたところだった」
言われて気付いた。成瀬さんは雨に打たれてしまったのか、服が少し濡れている。
でも、どうして私を?
私が匠海くんに会いに行くことは知っていたはずだし、成瀬さんも一ノ瀬さんと会う約束をしていたはずで…あれ、そういえば。
「一ノ瀬さんは…?」
一緒にいるはずの彼女の姿が見当たらなくて、キョロキョロと辺りを見渡した。そんな私を見て、成瀬さんは「一ノ瀬?」とキョトンとする。
「会う約束をしていたんじゃ…あ、もう別れたんですか?」
「彼女には会っていない。てかどうしてそれを…」
あれ、おかしいな。昨夜電話で約束していたはずだし、さっき一ノ瀬さんにも会ったのに。成瀬さんに気持ちを伝えるって言っていたけど、彼女も入れ違いで会えなかったのだろうか。
「それより幼なじみはどうした。“デート”はもう終わったのか?」
成瀬さんの手が、私の頬に触れた。雨に打たれたせいか、その指先はいつもより冷たい。
「…デートは、出来ませんでした」
「え?」
成瀬さんの瞳が揺れた。その表情から動揺しているのが伝わってきた。