つれない男女のウラの顔

「ラインでいいですか」

「うん、いいよ。ありがとう」


連絡先の交換なんていつぶりだろう。メッセージアプリを開いてみたはいいものの、操作方法が分からずかなり焦った。

テンパりながらもなんとか作業を終えた頃には先程よりも風が強くなっていて、遠くの方で嫌な音(・・・)も聞こえた。

これは本格的にやばくなってきた。


「ありがとう花梨さん。すぐ連絡するからね」


すぐでなくて大丈夫です。と心の中でツッコミを入れつつ、肩に掛けていたバッグを抱えるように持ち替えた。「失礼します」と目も合わさず踵を返した私は、逃げるように駅へ向かって走った。


「…最悪だ」


思わず独り言を呟いてしまったのは、あの音(・・・)がだいぶ近くなってきたから。1秒でも早く帰れるように、とにかく急いだ。


──けれど、私の嫌な予感は見事に的中してしまった。


アパートの最寄り駅で電車を降り、コンビニで傘を購入した数分後、遂に土砂降りの雨に襲われたのだ。

横殴りの雨は傘ではしのげず、服も靴もびしょ濡れで、髪はボサボサ。でも何が一番嫌って、さっきからずっと鳴り響いている雷だった。

光ってから音が鳴るまでに間があるから、まだ少し距離があるみたいだけど、雷が苦手な私が恐怖を感じるには十分なレベル。これだから夕立は大嫌い。


「いやあああ!」


小さな悲鳴は雷や雨音に掻き消された。今の私はクールどころかもはやゾンビ。

途中で雨宿りすることも考えたけれど、こんなボロボロの姿でお店に入ることも出来ず。何とかアパートに辿り着いた時には、全身ずぶ濡れになっていた。

玄関前、未だ鳴り止まない雷に怯えながら、震える手でバッグの外側に付いているポケットに手を突っ込む。

早く、早く部屋の中に───…


「………あれ」


何かがおかしい。ポケットの中をいくら探っても私の手に何も触れない。そこにあるはずの物がない。


「嘘でしょ………」


───鍵が、ない。
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