つれない男女のウラの顔
「えっ…と…」
どうする私。スマホの充電が切れていると言えば、口頭で電話番号を尋ねられそうだし、スマホを持っていないっていう嘘は苦し過ぎるし、そもそも同じ会社の人にそんな嘘は通用しないし。
「あ、急にこんなこと言われても困るか。実は今度資材部の飲み会があるんだけど、花梨さんも良かったらどうかなと思って。勿論お金はいらないし、友達を連れてきてくれてもいいし」
残念ながら、私が声を掛けられる友達はマイコしかいない。その前に、男性ばかりの資材部の中に入る勇気はない。
女性と楽しく飲みたいのなら、他をあたっていただきたい。
「私お酒は飲めないので」
「飲まなくても大丈夫だよ」
「あと、当面予定が詰まってて」
「飲み会はしょっちゅうしてるから、とりあえず連絡先さえ教えてもらえばその都度連絡するし」
なかなかにしつこいな。そして物凄く距離が近い。さっきより更に近くなってる。
この人、雰囲気は優しいのかもしれないけど圧が凄い。
少しでも距離をとろうと、肩掛けのバッグをさり気なく石田さんの方に持ち替える。それでも近いけど。
「…無理かな?」
「……無理…といいますか…」
「別に悪用しないし、何か企んでるわけじゃないよ。ただ純粋に親睦を深めたいだけなんだ。花梨さんと話してみたいってやつが結構いるからさ。もちろん僕も含めて」
「……」
「…やっぱりダメ?ガードが固いって噂、本当なんだね」
渋る私を見て、石田さんは弱々しい声を出す。「迷惑だったよね、ごめんね」と眉を下げて傷付いたような顔をするから、罪悪感に押し潰されそうになる。
「連絡先だけなら…」
押しに負けた。このまま逃げ切る勇気がなかった。「えっ、いいの?」と目を輝かせる石田さんに、おずおずと首を縦に振った。
「スマホはあまり見ないので、連絡をいただいても返事は遅くなると思いますが」
むしろ返信するつもりはない。とりあえずこの場をやり過ごすために承諾しただけだ。
けれど私の作戦を知らない彼は「全然いいよ」と破顔する。その笑顔があまりにも眩しくて、胸が痛んだ。