つれない男女のウラの顔
episode4
(本当にお邪魔してしまった…)
“今日は俺の部屋を使えばいい”
あの提案をされた直後は、丁重にお断りするつもりだった。けれどもタイミング悪く私がクシャミをしてしまい、このままだと風邪を引くからという理由で結局成瀬さんのお部屋にお邪魔してしまった。
しかも態々お風呂にお湯まで張ってくれて、いま図々しくも成瀬さん宅の湯船に浸かっている。
「男の人の部屋のお風呂なんて初めて…」
挙動不審になりながら辺りを見渡す。
玄関に引き続き、浴室の構造も私の部屋と同じだけど、置いている物が違うだけで全く別の部屋のように感じる。せっかくあたたかいお湯に浸かっているというのに、驚くほどくつろげない。
成瀬さんはこのシャンプーを使ってるんだ、とか。ボディソープはあのメーカーなんだ、とか。
考えれば考えるほど成瀬さんの部屋に来たという実感が湧いてきて、恥ずかしさのあまり発狂しそうになる。
「…やっぱ、優しい人なんだよなあ」
塩対応とか無愛想って言われている成瀬さんは、昨夜人付き合いが得意ではないと言っていたけど、意外と面倒見がいいことが分かった。
石田さんとの電話も、私があのままずるずると会話を続けていたら、きっと彼はこのアパートまで来ていただろう。成瀬さんのお陰で助かった。
……ていうか、石田さんはあの電話の相手が成瀬さんだってことに気付いてないよね?
あの一瞬だけで成瀬さんの声と判断するのは難しいだろうし、そもそも私と成瀬さんが一緒にいるなんて思わないだろうし。だから多分大丈夫。うん、大丈夫。
でも明日鍵を返してもらうときに突っ込まれたらどうしよう。「あの人は誰?」って聞かれたら、なんて答えたらいいの?
はあ…気が重い。