つれない男女のウラの顔
だが、このまま一緒にいるのは危険な気がした。だから咄嗟に部屋を出ることを決めた。
とりあえず食事は済ませるとして、この時間からどこへ行こう。近くのビジネスホテルか、それとも友人のところか。まだ雨は強いが、車なら大丈夫だろう。
届いたお弁当を受け取りながら、気を紛らわすようにそんなことばかり考える。
そもそも俺は自分の部屋に人を招くのは好きじゃない。気の許した友人ですら、俺の部屋に泊まったことはない。その証拠に来客用の布団なんてものはこの部屋に存在しない。
そんな俺が、苦手な女を部屋に泊めるなんてありえない。何時間も同じ空間にいるなんて、耐えられるわけがないんだ。
───それなのに。
引き止められて、どこかホッとしている自分がいた。
「…ここにいてくれませんか…?」
他の女に言われたら嫌悪感しかない台詞なのに、なぜか拒否出来なかった。
もしかしてコミュ障っていうのは嘘で、かなりの男好き?今までもこの作戦で色んな男を誑かしてきた?と、怪しんだのは一瞬で、着ている俺のTシャツ裾を強く握り、尻すぼみになりながら必死に言葉を紡ぐ花梨を見ていると、そんな考えはすぐに消えた。
とはいえ、この世で唯一苦手な女と一夜を明かすわけで。
アルコールを摂取しないと、もたないと思った。