つれない男女のウラの顔

成瀬さんが足を止めたから、私も同じように立ちどまり、目の前に停車している車を見て思わず息を呑んだ。

まさかの外車。SUVの迫力と、外装の高級感に固まってしまう。


「どうぞ乗って」


成瀬さんが助手席のドアを開けてくれて「はい」と返した私の声はカッサカサだった。おずおずと乗り込めば、ふわっとムスク系の芳香剤の香りがした。

内装も高級感があって、レザー調のシートも座り心地抜群。成瀬さんの車ってだけでプレミアがつきそうだし、どんなご褒美なのほんと。


「花梨の鍵はこれで間違いないか?」


運転席に乗り込んだ成瀬さんが、さっそく私に例の物(・・・)を渡してくれた。見慣れたキーリングの付いたその鍵は、間違いなく私の物だった。


「間違いないです。ありがとうございます。でもどうやって…」


シートベルトをしめ、車を発進させる成瀬さんの横顔を見つめながら小首を傾げると、彼は前を向いたまま口を開いた。


「製造技術の二輪(にわ)って分かるか?」

「二輪さん…?」


その名前でふと思い出したのは、今朝石田さんと会話をしていた人。


「はい、分かります。とっても明るくて面白い方ですよね。奥さん一筋でいつでも惚気けてくれるって、同じ部署の女性社員達が話しているのを聞いたことがあります」

「そうそう。その二輪は俺と同期で、年に一度は飲みに行ったりする仲なんだけど…」


意外だ。あの二輪さんと成瀬さんが仲良しだなんて。見た目も性格もまるで正反対。一緒にいるところなんて想像出来ない。

…いや待てよ、私とマイコも傍から見たらそんな感じだ。てことは、実は相性がいいのかも。

二輪さんは盛り上げ役みたいな賑やかな人だけど悪い噂は聞いたことがないし、成瀬さんにとって信用出来る人なのかもしれない。


「アイツに頼んで、石田から鍵を取り返してもらった」

「え?どうしてそこで二輪さんが…」

「石田は二輪の同じ高校の後輩なんだ。ふたりともサッカー部で、上下関係がかなり厳しい部だったらしい」


なるほど、だから成瀬さんは石田さんのことをよく知っていたのか。女癖が悪いとか、口癖は“浮気は伝統”とか…。


「昨日の件を二輪に相談したら、朝一で石田のところへ向かってくれたんだ。石田は二輪に頭が上がらないから、ついでに昨日のことを問い詰めたら、花梨に会う口実を作るためにバッグから鍵を引き抜きいたと白状したらしい」

「えっ」

「正確には、バッグのポケットから落ちそうになっていた鍵を拾ってあげた(・・・・・・)と言ったらしいが、恐らく嘘だろう」


“ありがとう花梨さん。すぐ連絡するからね”


あの時の“すぐ連絡する”って、そういう意味だったの?
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