冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う
「ハンカチは差し上げます。どうぞ気にしないで使って下さい。」
司はにこやかに笑顔を返す。

そして鈴木に目線を送り、後はよろしくと肩を叩いて店を出て行った。

残った鈴木と琴乃は、少し気持ちを落ち着けてから店を後にした。

「申し訳ありません。若はとても忙しい人なんです。今日も私だけでお会いするつもりだったのですが、わざわざ時間を作って来られたのです。」

鈴木が頭を下げて司の代わりに詫びる。

「いえ、立派な肩書の方だとお見受けしました。
わざわざありがとうございます。
ですが…このお金…本当に頂く訳にはいかないんです。どうすれば良いのでしょうか?」
困り果てた琴乃が、鈴木にまで聞いてくる。

「若は、貴方のお好きなように使って下さいと言っておりました。もしも貴方の中に、莉子様に対して後ろめたい気持ちが残っているのであれば、当時彼女にしてあげたくても出来なかった事とかありませんでしたか?」
鈴木は微笑みそうヒントを伝える。

ああ、それならばと、琴乃は思い大きく頷く。

このお金で大人になった莉子に似合う、素敵な着物を買って送ろうと思った。

「ありがとうございます。
大切に使わせ頂きますと、長谷川様にそうお伝え下さい。」  

琴乃は初めて車に乗り、快適な帰り道を堪能する。

鈴木が運転する車の中で、莉子の色々な思い出話しを琴乃は話して聞かせる。

「そう言うばこう言う事がありました…」
琴乃が話した話の中には辛い思い出の中に、少しだけ心がほっこりする話しもあって、鈴木はホッとした。

中でも、文字が書けない琴乃の為に、莉子が手紙を書き琴乃の実家に送ってくれたと言う話しは、莉子の優しさや思いやり深さを感じ取ることが出来た。

莉子がどんなに辛い毎日の中でも、他人を思いやり人の役に立ちたいと思っていた事、司に伝えなければと鈴木は強く思った。

「もし宜しかったら長谷川家に、莉子様に会いに来て下さい。きっと彼女も喜ぶでしょう。」

別れ際、鈴木は琴乃にそう言う。

「いいえ…とんでもない事です。私は莉子様に合わせる顔が無いのです。
いつか…どこかでばったり会えたらと思っております。莉子様の幸せを遠くから祈っております。」

そう言って、丁寧に頭を下げて鈴木を見送ってくれた。

鈴木はその足で、森山家について調べる為に役所に向かった。
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