冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う

司の思い

(司side)

2人と別れ、急ぎ路面電車に飛び乗る。
丁度空いている時間帯で程なく座れて一息付く。

モリヤマリコ…先程から頭で何度も呪文のように繰り返す。

リコと言う名は珍しく今まで聞いた事のない名だった。

ああ、通りで麻里子と千代が、彼女の名前を聞き出そうと躍起になっていた時、全く出て来なかった筈だと妙に納得した。

「モリヤマリコ…」
声には出さず唇を動かす程度に、彼女の名前をそっと呟く。

リコ…今朝見た、彼女の笑顔を思い出す。

モリヤマリコ、彼女にぴったりの可愛らしい名前だ。

そう思うと、途端に脈が高鳴り息苦しいまでに心拍が上がる。

どんな漢字で書くのだろうか?
彼女の事なら何だって知りたいと思う。

東雲家で虐げられていた話しを聞き、はらわたが煮えくり変えるくらいの怒りを覚えた。

それと共に、彼女がもうこれ以上辛い事がないように守り助けたいという、庇護欲にも似た気持ちが積もる。
ドキドキと鳴り続ける自身の心臓の音を聞きながら、これが何を意味しているのか司はまだ気付く余地も無い。


< 43 / 222 >

この作品をシェア

pagetop