冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う
「私の方こそ…不慣れで申し訳けございません。」
莉子がそう言って可愛く笑う。

話さなければいけない事は沢山あるが、それよりも何よりも今大事なのは、莉子の気持ちに寄り添う事だと司は思った。

「聞きたい事はなんだ?」
と司が莉子の手を握りながら問えば、

「東雲家とはどうなりましたか?」
と、莉子が聞いて来るから、

「話し合いは滞りなく終わったが、二度と莉子に近付かない様に、念書と手切れ金を渡して来た。」
と、包み隠さず伝えた。

「手切れ金ですか…ご迷惑を、おかけしました。」
そう言う莉子の心理は分からないが、その表情は穏やかだと司は思う。

「後は?」

「兄と妹とは会えましたか?」
と、聞いてくるから、

「運転手の鈴木が君の兄上とは会えて、明日会う事になった。妹さんとは…居場所が分かったが…なかなかに会う事は難しいらしい。」
と、言葉を濁す。

「そう、ですか…。」
莉子の少し気落ちする様子に心が痛くなる。

「必ず会えるように、手は尽くすからもう少し待っていてくれ。」
花街がどのようなところか良く知らない莉子に、現実を話すのは気が引けて、曖昧な事しか言えないでいる。

「お着替え、なさいますか?」
莉子がハッとした様に司の手を離す。

それを司は少し寂しく思いながら、それでもフッと笑立ち上がり背広を脱ぐ。

莉子はそれを衣紋掛けにかけて、黒地に白の柄の着流しを広げ、ワイシャツを脱ぐ司に合わせて後ろから掛ける。

こうすれば、司の逞しい上半身を見てドギマギしなくて済むし、何より体が冷える前に着替えられるのではないかと莉子は考えたのだ。

「ありがとう。」
着流しに腕を通した後に、ズボンを脱ぐ。

なるほどな…と、司も思いながらフッと笑って莉子を見る。いつかは慣れてもらわなければ困るが、今はこの距離感が心地良い。

莉子に好かれはしないまでも嫌われないよう、気を付けようと心で思った。

「今朝の手紙の返事は改めて…書かせてもらう。
だが…そういう手紙を書いた事がないから、少し時間が欲しい。」
そう莉子に伝えると、

「ご返事が欲しくて書いた訳ではないので気にしないで下さい。」
と、思いやりのある言葉をもらう。
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