冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う

兄との再会

次の日、
夕方仕事を切り上げ司は莉子の兄に会う為、駅前の喫茶店に足を運ぶ。

昼過ぎから降り出した雨のせいで、外気が冷えて吐く息が白くなるほどだ。

早めに駅前に着いた司は、莉子に何か手土産をと、甘味処の中を覗く。

「お兄様!」
と、突然呼ばれて振り返る。

「麻里子⁉︎こんな所で何してるんだ?」

司がおもむろに腕時計に目を落とせば18時半、なぜこんな時間にここにいるんだ?と怪訝な顔で麻里子を見る。

「莉子さんと、プリンを食べに来たの。」

「莉子も来ているのか⁉︎」

顔の傷も治りきっていないのに、こんな街中に出て来て平気なのかと、戸惑いながら莉子を探す。

すると、店の中から何やら箱を大事そうに抱えて、莉子が出てくる。

「あっ、司様…。お疲れ様でございます。」
控えめに頭を下げて、莉子が司に近付いて来る。
 
司が珍しく、驚きの感情を露わにして莉子に駆け寄る。
 
「莉子…何故ここに?傷は…平気なのか⁉︎」

顔を伺い見ると、少し化粧をして青くなっていた痣を上手に隠していた。
額の傷は前髪で見えないように隠している。これならばよく見なければ分からないだろうとホッとする。

「あの…千代さんにお化粧をしてもらいました。
鈴木さんから待ち合わせ場所を聞いて…
出来れば…一緒に…兄に会いたいのですが…。」
小さな声で、俯きかちにそう言ってくる。

そうか…本人にちゃんと聞くべきだった…。

莉子だって実の兄に会いたかったのだ。

傷の事もあって、外に出たくないだろうと思い込んでしまっていた。

「すまない…。もっと莉子の気持ちを聴くべきだった。」
司は莉子にだけ聞こえる声で謝ると、フルフルと小さく首を横に振って、

「いいえ…私も来るつもりは無かったのですが
…麻里子さんと千代さんが行くべきだって背中を押してくれたんです。場所は運転手の鈴木さんに聞いて…。
すいません、私こそ突然来てしまって…。」
申し訳なさそうな顔をする。

「そう言う事だから、お兄様、莉子さんの事よろしくね。私は先に千代さんと帰るから。」

麻里子は兄にウィンクまでして、手を振って楽しそうに千代と帰って行った。

「じゃあ、行くか。」

司は当たり前のように、莉子が大事そうに抱えている荷物を持とうと手を差し伸べると、

「あっ、大丈夫です。そんなに重くはないんです。」
と、拒まれる。

麻里子の場合はいつだって、重い荷物を持たれたから、当たり前のように持とうとした司だが、莉子はそうではないんだと、不思議な感覚を覚える。

「あの…これは、兄へ渡したくて…お弁当を作って来たんです。」
恥ずかしそうに莉子が言う。

「莉子が作ったのか?」
司は少し羨ましく思いながら歩き出す。
その後を二歩下がって着いてくる、莉子を気遣いながら喫茶店へと足を運ぶ。
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