65リットルよりも、笑って。
「なゆ、なにが見たい?基本なんでもいるぞ」
「……へ、び」
「……ヘビ?」
「ヘビ」
と、今度はそれしか言わなくなった。
今のなゆはスペシャルなゆが9割を占めていた。
暴れたり泣き出したりしないのは、ある意味で病気がスピードを上げて進行している証拠。
基本一点を見つめ、こちらの問いかけに応えてくれるほうが珍しい。
「爬虫類だぞ、大丈夫か?」
返事も反応もない。
「じゃあまずヘビ、行くか。いちばん奥のゾーンなんだけどな」
ただ、変わらない顔で笑うんだよなこいつ。
そして俺の袖を掴んでくる。
「怖くなって逃げるなよ?」
「…へび」
「ああ。行こう」
俺が車椅子を引くたびに、そしてなゆを目にするたびに、周りの人間たちは視線を送ってくる。
すこし前の本人は乗り切り方を笑顔で話していたが、今のなゆはそれすら気にしていない。
たまに目の前に飛んでくる蝶々を目にしては視線だけで追いかけるくらいだった。