65リットルよりも、笑って。




「動物園に行きたかったなら……言えよ」



もっと他に行きたい場所があったんじゃないか。

遊園地や海、そういう場所に行きたい気持ちがあったんじゃないか。

今回が初めてだった。


なゆから「行きたい」と言ってきたのは。


こうして自我も曖昧になってきてから、おまえは自分の願いを言ってくるんだ。

………ズリぃだろ、そんなの。



「おまえのためなら研修医ってのに甘えて有休ぜんぶ消化したって良かったんだぞ」



わかっていない。


俺がどんな顔で言っているのか、どんな気持ちで言っているのか。

聞こえてはいるだろうけど、わかっていない。

理解ができていない。



「…返事……してくれよ、」



これが中枢神経原発悪性リンパ腫という、なゆが患った脳腫瘍の───言うなれば末期症状だった。



「なゆ、ほら。ヘビいる」


「…び」



ケース内にいるヘビへと、なゆは夢中。

その姿は「かわい~!」と言っているようにも見えて、俺はせめて脳内に彼女の声を響かせた。



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