65リットルよりも、笑って。
声をかけて、笑いかけて、名前を呼ぶ。
そんな医者じゃなくともできるようなことしか、誰にだってできることしか、俺にはもうできないんだよ。
「病気を救えないなら…、それくらい叶えろって話だよな…っ」
ごめん。なゆ、ごめん。
息子が医者だと名乗ることに鼻を高くさせている両親に言ってやりたい。
お袋、親父、俺はこんなにも目の前にある大切な命すら救えない医者なんだぜ───と。
「……せん、せ…、」
「っ、なゆ、」
神様、たのむ。
俺にこいつの言葉をしっかり聞かせてくれ。
それだけでいい。
もう、それだけでいいから。
願うことは、それだけだ。
明日からはちゃんと神社には感謝を伝える。
今まで責めてしまっていたが、もうそれもしない。
「…泰斗くん」
俺の耳に、ハッキリと聞こえた。
一点を見つめていたいたはずの瞳に、キラリと光が宿る。
そして動いた、唇。