65リットルよりも、笑って。




それはとても、あまりにも、彼女らしい最期だった。


動物園に行った日から、ちょうど1週間後。


ずっと俺の袖を掴んでは離さない日があった。

俺はもちろんそばにいてやりたかったから、できる限りその日は彼女のそばにいた。



「大丈夫だ、なゆ。俺はここにいる」



酸素マスクは本人が嫌だと言ったため取り付けていないが、どんどん薄くなっている酸素濃度。

心電図で確認する脈拍や波形を見ても、不整脈が目立っていた。


もちろん主治医含めた医者たちもそれは把握していて、ただ、衰弱している彼女自身の体力を見てもこれ以上の手を加えることは物理的にもできなかった。


ウィッグもニット帽も外した姿のなゆを、俺は目にするたびに愛しいと思う。



『知ってた?人間が一生のうちに流す涙の量って、約65リットルなんだって』



約65リットル。


俺は幼い頃からあまり泣かない子供だったという。

たとえ一生ぶん流したとしても、たぶん65リットルは超さないと思っていたが。


余裕で超すかもしれないな…と、今なら。



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