【シナリオ版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。
第一話
○冒頭アップ・とある神社での結婚式(昼)
黒い紋付を着た新郎のヒーローと白無垢を着た新婦のヒロインが二人で並んでいる。神前式を執り行っている真っ最中。
ヒーロー・和仁は仏頂面、ヒロイン・ジェシカは俯いて静かに式の成り行きに任せている。二人とも笑顔はない。
●吉野和仁
黒髪で前髪をセンターパートにした和服の似合う塩顔イケメン。
●吉野ジェシカ(旧姓:葉桜)
ブロンドのゆるふわロングヘア。瞳の色はグレーでまつ毛もブロンドで長い。アメリカ人とのハーフ。
ジェシカモノローグ「この日形だけの挙式を挙げ、私は姓を吉野とし、極道・桜花組次期組長の妻となった。
そう、形だけ。これは両家の利害関係による政略結婚」
形式的に神前式が進んでいく様子。
ジェシカモノローグ「愛のない結婚だけど、それでもよかった。
愛されなくても、あなたの妻になれてよかった」
チラリと和仁を見やるジェシカ。和仁は目を合わせようとせず、終始仏頂面。
○回想・ジェシカ宅のリビング
三ヶ月前。
父、母、ジェシカ、妹の莉々果の四人がテーブルを囲んで座っている。父と母が隣に座り、向かい合って姉妹が座る。
父、酷く青ざめている。
父「実は、会社が潰れるかもしれなかったんだ」
母「会社が潰れる!?どういうことなの?」
父「社員の一人がライバル企業のスパイで…ウチの技術を盗んだ上に先に商品化してしまった」
ジェシカモノローグ「父は中堅のメーカー企業の社長をしている。
スパイ社員はこの問題が発覚する前に退職し、元の企業に戻った。
しかも父の会社が技術を盗もうとしていたとあらぬ風評を流され、信頼を失って倒産寸前まで追い込まれたという」
ジェシカ「(お父さんには悪いけど、企業スパイなんてドラマみたいだわ!)」
内心ワクワクしているが顔に出さないようにしているジェシカ。
○父の回想・とあるバーのカウンター
現状を憂い、一人バーでヤケ酒していた父にある男性が声をかける。男性の顔は見えない。
男性、父の隣に座り泥酔する父の話を聞く。
父モノローグ「ヤケ酒してた時に話しかけてきた男性に、酔った勢いで会社がなくなるかもしれないと愚痴ってしまった。
すると男性は、こんなことを言い出した」
男性「私ならそのスパイから全てを取り戻せるかもしれない」※顔は見えない。口元だけ笑っているカット。
父「もしそんなことができたらお願いしたいね。どんなお礼でもするよ」※顔が赤くかなり酔っている
父モノローグ「その翌日、ライバル企業が技術を盗作していたというタレコミが流された。動かぬ証拠が次々と流出し、何とか会社の倒産は免れたんだ」
新聞の見出しやネットニュースのカット。
記事を読んで驚愕する父と社員。
○父の回想終了・リビング
ジェシカ「(やっぱりドラマみたいだわ…!)」
ワクワクしているのが抑えきれないジェシカ。
父「早い話が、本当にその人が助けてくれたんだ。でもその人は、極道の組長だった」
母「極道ですって!?」
父「しかも関東でも一、二を争う巨大勢力、桜花組の組長で……」
母「どうして極道の組長があなたに手を貸したの?」
父「僕も酔っていてちゃんと覚えてないんだが…組長には跡取りとなる息子がいて、その息子の嫁を探していたんだ」
母「まさか、それって」
父「娘を嫁に欲しいって……」
莉々果「何よそれ!そんなの無理よ!!」
莉々果、大声をあげて立ち上がる。
ジェシカ、驚きと戸惑いの表情を浮かべて妹を見上げる。
莉々果「まさかパパ、莉々果に極道の妻になれって言わないわよね!?」
父「……」
父、娘の顔が見られず俯く。
母「あなた、莉々果はまだ大学生よ。これから社会に出て勉強していくのに、結婚なんて…それも極道だなんてあり得ないわ」
莉々果「ママの言う通りよ!莉々果カレシだっているのに!
だからもちろん、嫁に出すならお姉ちゃんよね?」
立ち上がったままジェシカの方を見やる莉々果。意地悪そうな冷たい表情。
ジェシカ「え……」
莉々果「お姉ちゃんは今フリーでしょ?鈍臭くてこの先嫁のもらい手なんているかわからないし、極道でももらわれた方がいいんじゃない?」
母「それもそうね。きっとその方がジェシカさんのためにもなるわ」
莉々果「よかったわね、お姉ちゃん!」
父、震えながらジェシカに向かって深々と頭を下げる。
父「すまないジェシカ、どうかこの結婚を受けてくれないか……!!」
ジェシカ「……」
ジェシカ(極道との約束を違うことがあれば、どうなるかわからない。受けざるを得なかったのね…)
ジェシカ「……わかりました。結婚します」※笑顔
○回想・ジェシカの過去
ジェシカモノローグ「私、葉桜ジェシカは父がよそで作った子どもだった。
アメリカ人の母は和食に魅せられて若い頃に来日し、父と出会って私を身ごもった。後に父が既婚者だったことを知り、父とは別れて私を一人で育てながら母は必死に働いた」
昼は定食屋、夜はスナックで働くジェシカの実母。
十歳のジェシカ、料理を作る。帰宅した母、嬉しそうな笑顔をジェシカに向ける。
狭いアパートで母娘二人、決して裕福ではないが幸せな家庭の様子。
ジェシカモノローグ「でも無理が祟ったのか、過労で倒れた母は私が十四歳の時に亡くなった。残された私は、罪悪感からなのか父が引き取ることになった」
母の葬式。母の遺影を持って悲しそうに俯く十四歳のジェシカ。中学の制服(セーラー服)を着ている。
今より若い父、少し気まずそうにジェシカに話しかける。
ジェシカモノローグ「それから十年葉桜家にいるけど、未だに私の居場所はない。
本妻である義母は私を酷く嫌っているし、義妹の莉々果にも良く思われていない」
ジェシカに対して疎ましい視線を向ける義母と莉々果のカット。
○現在に戻る・ジェシカの部屋
本棚に仕舞われているDVDを探すジェシカ。
ジェシカモノローグ「今回の結婚は義母と莉々果にとっては、願ってもないことだと思う。厄介者の私を追い出せるのだから。
でも私は自分を不幸だとは思っていなかった。
だって――、」
ジェシカ「本物の極道なんて……ちょっと見てみたいわ!」
ジェシカ、瞳をキラキラさせ胸には任侠もののDVDを抱える。
ジェシカモノローグ「日本贔屓だった母の影響でサムライ、ニンジャといった日本文化が大好きだった。
特に最近は任侠もの映画にハマっていたので、正直興味を惹かれずにいられなかった」
任侠もの映画を食い入るように見るジェシカのディフォルメ。
ジェシカ「(どうせこの家にいても時間を浪費するだけだし、お金を貯めていずれは出て行こうと思っていた。それが早まったのだと考えれば良い。
知らない人と結婚することになっても、今の生活を続けるよりかはマシだわ)」
○別の日・とある高級料亭
実母の形見である真っ赤な着物を纏い、父と共に高級料亭の一室で待つジェシカ。
父は緊張していて落ち着かない様子。
ジェシカ「(極道の組長ってどんな人かしら?)」※ドキドキ
正仁「お待たせして申し訳ない」
●吉野正仁
口髭を蓄えた渋い男前の中年男性。桜花組組長。穏やかそうだが鋭い眼光。
高級そうな着物を着こなしている。
正仁「私が桜花組組長、吉野正仁と申す。こっちにいるのが一人息子の和仁だ」
ジェシカ(え……)
和仁のアップ。
黒いスーツ姿。かなり仏頂面で睨むような視線。
※キラキラエフェクトでとにかくイケメンに。
ジェシカ「(嘘でしょ…?この人が私の結婚相手で極道の次期組長?)」
ドキドキという胸が高ぶる効果音。
ジェシカ「(めちゃくちゃタイプだわ……!!)」
衝撃を受けた表情(でもかわいく)。
ジェシカ「(クールな雰囲気に整った容姿。しかも極道の次期組長。
今ハマっている任侠映画の若頭そのものじゃない……!)」
頬を染めながら和仁をガン見するジェシカ。
和仁、一度もジェシカと目を合わせようとしない。
父「……シカ、ジェシカ!」
ジェシカ「(ハッ!)」
父「何してる。お前も自己紹介しなさい」
ジェシカ「あっはい、すみません。葉桜ジェシカと申しますっ」
父「この通りアメリカ人とのハーフでして。前妻との子なんです」
ジェシカ「(本当は不倫でマムとは結婚してないくせに…)」
正仁「ふむ、なんと綺麗なお嬢さんだ。よかったな、和仁。こんなに綺麗な嫁さんにきてもらえて」
和仁「……」※目を合わせない
正仁「無礼な倅ですまないね」
父「い、いえ、とんでもない!吉野組長には大変お世話になり、何とお礼をしてよいか…っ」※ヘコヘコ
正仁「こちらこそ、こんなに良いお嬢さんに来ていただけるとは光栄だ。どうかよろしく頼むよ」※威圧感強め
父「は、はいっ!もちろんです……!」
ジェシカモノローグ「そのまま縁談はトントン拍子で進み、和仁さんとまともに会話することがないまま結婚式を迎える」
○結婚式当日・神社
紋付と白無垢姿でこれから神前式が執り行われる直前。会場に向かう途中。
和仁「君は本当にそれでいいのか?」
ジェシカ「(初めて話しかけてくれた!)」※嬉しそう。
和仁「政略結婚の道具にされて嫌ではないのか」
ジェシカ「いいんです。いずれ実家は出るつもりでしたから」※ニコッと微笑む。
和仁「好きでもない男と結婚することになってもか」
ジェシカ「そうですね…」
ジェシカ「(和仁さんの顔はとても好きなので、全く好きじゃない人でもないのだけれど。
紋付き姿の和仁さん、やっぱり素敵だわ)」
和仁「……父の命令で仕方なく籍を入れるが、君と夫婦をやるつもりはない」
ジェシカ「……!」
和仁「君が生活しやすいように環境の配慮はする。
だが、俺はもう誰も愛さない。君とは書類上だけの夫婦だ」
ジェシカモノローグ「私の目を見てそう言った彼のことを、場違いにもなんて誠実な人だろうと思った。
取り繕うことなくはっきりそう言ってくれるなら、こちらも余計な期待をしなくて良い。
偽りの愛の言葉を並べられるより、ずっと誠実だと思った」
ジェシカ「心得ました」※アップで柔らかい微笑み
和仁「!」※面食らった表情
和仁「……わかったのなら良い」※ジェシカから顔を逸らす
ジェシカモノローグ「こうして私たちは書類上だけの夫婦になった。
愛のない政略結婚、それも極道に嫁ぐことになるなんて思ってもみなかった。
それでもこれは私自身が選んだ人生だから」
○回想・実母の言葉
実母「ジェシカ、生きていれば嫌なことも辛いことも、思い通りにいかないこともたくさんある。
でも、自分の進む道に誇りを持ちなさい。それがどんな道だろうと、私はジェシカの味方でいるから」
○現代に戻る
式場へ向かう二人。
ジェシカ「(マムはきっと、私が決めた道を応援してくれるはず。天国から見守っていてね。
私は私なりの幸せの在り方を見つけるわ。
極道の妻になったからって、不幸になるとは限らないもの)」
ジェシカモノローグ「私はこの時はまだ知らなかった。
誰も愛さないと言った和仁さんの言葉の裏に隠れた思いを――」