【シナリオ版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。

第二話



○吉野の邸宅・居間(朝)
※吉野家の邸宅はかなり大きくて広々とした日本家屋。和室がほとんどだが、洋室もあるなど見た目に反して今風の屋敷。棟がいくつかあり、その中の一棟が和仁とジェシカが生活する家となっている。
※居間は和室。

 ジェシカに向かって跪く強面の男たち。
 一番前にいる若い男・千原、ジェシカに向かって子犬のような人懐っこい笑顔を向ける。
 その隣の大柄で目つきの悪い男・笹部、大きく頷く。

千原(ちはら)
両耳、口にもピアスをバチバチに空けた童顔の青年。犬に例えるとチワワ。

笹部(ささべ)
スポーツ刈りで大柄な目つきの悪い男。犬に例えるとドーベルマン。

千原「(あね)さん!今日から我ら一同、誠心誠意姐さんにお仕えする所存。よろしくお願いします!!」
組員たち「よろしくお願いしやす!!」
ジェシカ「まあ」
ジェシカ「(正に映画の中の世界だわ……!)」

 ジェシカ、瞳をキラキラさせる。

ジェシカ「姐さんって私のことですよね?」
笹部「もちろんです。兄貴の奥方ですから」
ジェシカ「(私本当に極妻になったのね)」
ジェシカ「こちらこそ不束者ですが、よろしくお願いします」

 ジェシカ、丁寧に頭を下げる。
 舎弟たち、慌てる。

笹部「やめてくだせえ姐さん!俺たちに頭下げるなんて!」
ジェシカ「でも、これからお世話になりますし」
笹部「敬語もいりません!俺たち兄貴から、姐さんのこと任されてるんです。姐さんのことは、俺たちがお守りします!」
ジェシカ「(えっ……、和仁さんが?)」
千原「姐さんにはご不便かけませんから!」

ジェシカモノローグ「その言葉通り、本当に良くしてもらえた。
まず驚いたことは、家事は組員たちで当番制だったこと。料理、洗濯、掃除などなど分担して真面目にこなしていた。
桜花組は住み込みの組員が過半数だから、みんなで家事をやっているのだそう」

 家事をこなす組員たちの様子。それを見守るジェシカのカット。

千原「姐さんは休んでてください!」
ジェシカ「……」

○ジェシカの部屋(夜)
※ジェシカの部屋は洋室。ほとんど物がないシンプルな部屋。デスクには一輪挿しが飾られている。

 ベッドに座って溜息を吐くジェシカ。

ジェシカ「私には何も手伝わせてくれないのね…」

ジェシカ「(流石にやってもらってばかりでは申し訳ないと思ったのだけれど、『姐さんを働かせたら俺たちが兄貴に叱られます』って言われちゃうし…)」

 NO!とジェシカを止める組員たちのディフォルメ。

ジェシカ「(仕事も辞めたから専業主婦になるつもりだったのに、今この状況は専業主婦ですらないわ)」←英会話教室の講師だったが、極妻になりますと言えず退職した。

ジェシカ「え…つまり、私ってただのニート……?」

○回想
和仁「何かあれば、これを好きに使ってくれ」
 ブラックカードを手渡す。

○回想終了・ジェシカの部屋
 ジェシカ、和仁に手渡されたブラックカードを見つめる。

ジェシカ「そう言って渡されたけど、流石に使う気にはなれないし…」

ジェシカモノローグ「和仁さんとは当然のように寝室は別。いつも組の仕事で忙しそうにしているし、ほとんど顔を合わせることがない」

ジェシカ「……私、何のためにこの家に来たのかしら」

ジェシカ「(わかってる、これは形だけの結婚だから。
和仁さんは私に何も望んでいない。私はただのお飾りの妻だ)」

 ジェシカ、俯いていた顔を上げる。気持ちを入れ替えて立ち上がり、両手の拳を握りしめる。

ジェシカ「いや、落ち込んでる場合じゃないわ、ジェシカ。これは私が決めた道なんだもの!」

ジェシカ「(私には私のできることを探せばいいんだ!)」


○翌日・吉野邸の庭(昼)
 何も植えられていない寂しい庭に、苗木や種やお花を植えようとするジェシカ。
 千原と笹部、しゃがんで作業するジェシカに話しかける。

千原「姐さん?」
笹部「何してるんですかい?」
ジェシカ「お花を植えてみようと思って」
笹部「花ですか」
ジェシカ「このお家に足りないものは何かしらって考えた時、お花があったらもっと明るく華やかになるんじゃないかと思ったの。桜花組なんてお花の名前なのに、どこにもお花がなかったから」
千原「へー」
ジェシカ「お義父様にも許可をいただいたから、今日からガーデニングをするの」
千原「いいっすねぇ。姐さん、ガーデニングが趣味なんすね」
ジェシカ「いえ、やったことないわ」
千原・笹部「「えっ」」
ジェシカ「今日から始めるの」

 ニコッと笑顔を向けるジェシカ。

ジェシカ「(何事も始めてみるものだと、マムから教わった。
初めてのことに挑戦してみるのも悪くないわ)」

 庭の雑草を抜いたり、玄関に花を飾るジェシカ。


○和仁の部屋(昼)
※和仁の部屋は広々とした和室。高級旅館の一室を思わせる雰囲気があり、ベッドはキングサイズ。

 黄色いガーベラの一輪挿しを和仁のベッドの隣にあるサイドテーブルに飾る。

ジェシカ「(和仁さんが疲れて帰って来た時、ガーベラが和ませてくれたらいいな)」


○玄関(夜)
和仁「ただいま」
ジェシカ「あ、お帰りなさい」
ジェシカ「(やっぱり何度見ても和仁さんの顔ってタイプだわ。スーツ姿もカッコいい…)」※うっとり
和仁「どうした?」
ジェシカ「え?」
和仁「じっと見るから」
ジェシカ「あっいえ…」
ジェシカ「(和仁さんに見惚れていたなんて言えない…!)」

和仁「ん?花?」※ガーベラの花を見ながら
ジェシカ「あ、今日買って来たんです。綺麗でしょう?」
和仁「ああ、そうだな……」
ジェシカ「(あら?和仁さん、微妙な感じ?もしかして、勝手に部屋に入ったことを怒っているとか!?)」
ジェシカ「ごめんなさい!迷惑でした?」
和仁「え?」
ジェシカ「お花があったら華やかになるかなって思ったんですけど、勝手なことしてごめんなさい……」
和仁「いや、別に構わないが」
ジェシカ「怒ってないの……?」
和仁「それくらいで怒ったりしない。……いいな、花があるのも」

 和仁、真顔だが目は優しげ。花は嫌いじゃない。
 花を見つめる和仁の横顔にドキッとときめくジェシカ。

ジェシカ「(やっぱり和仁さんって、極道とは思えない程素敵…。
必要最低限の会話しかしないけど、私が生活しやすいようにすると言ってくれたことは守ってくれている)」
ジェシカ「(それに舎弟の皆さんと接していると、和仁さんがどれだけ慕われているかよくわかるわ)」

○昼間の回想
 みんなでガーデニングをしながら。

千原「俺たちみんな、兄貴が拾ってくれたんす」
ジェシカ「拾って?」
千原「俺は父親と折り合い悪くて外で喧嘩ばっかしてるチンピラだったんす」
ジェシカ「(意外だわ)」
千原「でも兄貴が力が有り余ってるなら一緒に来いって言ってくれたんすよ」
笹部「……俺は、犯罪者の子どもでした」
ジェシカ「まあ…」
笹部「生きてるだけで自分のこと否定されてるみたいだったけど、兄貴が初めて俺を受け入れてくれました」※感謝を噛み締めた表情
千原「兄貴の口癖なんすよ。桜花組というデカい家の中にいるもんはみんな家族だって」
笹部「兄貴は本当に懐の深い方なんです」

○回想終了・庭
 ジェシカと舎弟、ガーデニングをする。苗木を植えたり、お花を植えたりディフォルメ調で色んなカット。

ジェシカモノローグ「極道の世界のことはよくわからないけど、和仁さんを慕う舎弟たちはみんな明るく温かい。
もっと怖い世界だと思っていたけど、実際はみんな優しくてお話をするのが楽しい」

ジェシカ「(それこそ任侠ドラマで見たことのある世界だわ……!)」※瞳を輝かせる。 


○数日後・庭(昼)
 雑草がボウボウだった庭が花が咲き誇る華やかな庭へと生まれ変わる。

ジェシカ「すごい!なかなか綺麗なお庭になったんじゃないかしら?」
千原「めちゃくちゃ綺麗っす!」
笹部「こんなに綺麗になるとは」
ジェシカ「ありがとう。みんなが手伝ってくれたおかげよ」
ジェシカ「(和仁さん、見てくれるかしら……?)」

○同日・渡り廊下(夜)
 帰宅した和仁が庭の違いに気づく。

和仁「……あの庭は、君が?」
ジェシカ「!」
ジェシカ「(気づいてくれた!)」
ジェシカ「ええ、そうなんです!」
和仁「そうか」
ジェシカ「舎弟の皆さんも手伝ってくださったんです。みんな良い方ばかりですね」
和仁「……」
ジェシカ「和仁さん?」
和仁「君は、この家が嫌ではないのか?」
ジェシカ「嫌じゃないですよ?」※きょとんとしながら
和仁「そうか……」
ジェシカ「(ご飯も美味しいしみんな気さくで素敵な人たちばかりだし、実家よりも天国だわ)」
ジェシカ「この家に嫁いできてよかったです」※エフェクトでキラキラに(和仁にはこう見えている)

和仁「……ここは、君が思っているようなところじゃない」※顔を逸らす。
ジェシカ「え?」
和仁「いや、何でもない」※背を向ける。
ジェシカ「(多分今、線を引かれた…)」

 和仁の背中を寂しそうに見つめるジェシカ。

ジェシカ「(それとなく千原さんたちが教えてくれたけど、次期組長でありながら和仁さんに結婚の意思がなかった。
でも跡取りが欲しかったお義父様が、私の父を助けることを条件にこの縁談を取り付けたらしい。多分嫁になるなら誰でもよかったんだ。
それに和仁さんは今でも結婚は望んでいない。だから私と仲良くするつもりもないんだ――)」

ジェシカ「(所詮書類上だけの、お飾りの妻だものね…)」

 廊下で一人佇む寂しそうなジェシカ。


○一ヶ月後・庭(昼)
 ミニトマトの栽培をするジェシカ。

ジェシカモノローグ「結婚して一ヶ月、ガーデニングにはすっかりハマり、今はミニトマトの栽培を始めてみた」

 キッチンで料理をするジェシカ。

ジェシカモノローグ「みんなにお願いして、少しだけでも家事を手伝わせてもらえることになり、毎日が充実している」

○ダイニング
※和仁とジェシカが二人で使うダイニング。一般的な洋室のダイニングでダイニングテーブルに向かい合って座っている。

 一緒に食事をするジェシカと和仁。和仁は無表情で淡々と食事をする。

ジェシカモノローグ「和仁さんとは相変わらずな感じだけど、最近何となく無表情な和仁さんのことがわかるようになってきた」

ジェシカ「和仁さんの料理にはグリーンピース抜いておきました」
和仁「え?」
ジェシカ「うふふ、苦手なのでしょう?」

○回想・食事中
 グリーンピースだけ綺麗に弾いている和仁(真顔)。

○回想終了・現在のダイニング
和仁「……そうか」※真顔だが耳が少し赤い
ジェシカ「(照れ臭い時、すぐに目を逸らすし耳がほんのり赤くなるのよね♡そこがまたかわいいわ♡)」
和仁「君はよく俺の顔を見ているな」
ジェシカ「あっ、ごめんなさい」
ジェシカ「(ジロジロ見過ぎだったかしら?)」
和仁「何か言いたいことがあるのなら聞こう」

 和仁は一旦箸を置き、真っ直ぐジェシカを見つめる。

ジェシカ「(もしかして、私が言いたいことがあるのに言えなくてじっと見ていたと思ってる?全然違うのに……!)」
ジェシカ「えっと、違うんです」
和仁「遠慮しなくていい。君が快適に過ごせる配慮はすると言ったはずだ。不満があるなら言ってくれ」
ジェシカ「不満だなんて、そんな……」

 ますますジェシカの目を真っ直ぐ見つめる和仁。ドキドキしてしまうジェシカ。

ジェシカ「っ、和仁さんの顔が好きなだけなんですっ!」
和仁「……は?」
ジェシカ「あっ」
ジェシカ「(思わず言ってしまった……!!)」

 和仁、ポカンとする。真っ赤になるジェシカ。

ジェシカ「は、初めて会った時から和仁さんの顔がその、ものすごくタイプで…だからつい見てしまうと言いますか」
和仁「…………」
ジェシカ「(流石に引かれたかしら……?)」
ジェシカ「ごめんなさい!嫌ならなるべく見ないようにします!でも本当に好きなのでっ、たまに遠目から見ることだけ許していただけますか!?」
ジェシカ「(毎日和仁さんのお顔を拝むのが日課であり、エネルギーチャージになってるの…!)」

和仁「……ふっ」
ジェシカ「(え?今和仁さん、笑った……?)」
和仁「いやすまない、あまりにも正直すぎて笑ってしまった」

 和仁の笑顔のアップ。
 初めて見る和仁の笑顔にときめきが隠せないジェシカ。

和仁「君が毎日楽しそうにしているから不思議に思っていたが、そんな理由だったとは」
ジェシカ「あっもちろんそれだけじゃないですよ。ガーデニングもすごく楽しくて!
実家にいた頃は家で誰かと楽しくおしゃべりすることなんてなかったから、すごく楽しいです」
ジェシカ「(父がいれば一緒に食卓を囲んでいたけど、義母と莉々果は私がいると食事が不味くなると言って遠ざけていたし)」

ジェシカ「だからそうですね、我儘を言わせてもらえるのなら、こうして一緒に食事がしたいです。和仁さんの顔が見られるだけで元気になれるので」
和仁「……わかった」
ジェシカ「えっいいんですか!?」
和仁「君がそうしたいのなら」
ジェシカ「嬉しいです……!」※顔を綻ばせる

ジェシカ「(やっぱり和仁さんは優しい。
てっきり引かれると思ったのに我儘聞いてくれると思っていなかった)」

ジェシカ「(やっぱり和仁さんと結婚してよかった)」

 嬉しそうに食事を再開するジェシカのことを、意味深な表情で見つめる和仁。
 ジェシカは気づいていないが、二人の間に明確な温度差があることを示す。

和仁「……」
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