弱みを見せない騎士令嬢は傭兵団長に甘やかされる
 少しだけ休んでから宿屋の前に向かうと、ヴィルマーはもう一人男性を伴って彼女たちを待っていた。

「クラウスと言います。ご一緒させてください」

 人当たりがよさそうな二十代後半ぐらいに見える男性は、ふわふわした栗毛に琥珀色の瞳を持ち、ひょろっと上背が高い。ミリアたちも彼に挨拶をして、早速出発をした。

「古い町並みという感じですが、それなりに活気がありますね。店屋も生活に困らないぐらいは並んでいますし……」

 ヤーナックの町は、予想以上に大きい町だった。人口も多い。むしろ、この辺境でこれぐらい栄えているのに、辺境伯の手が届いていないなんてことがあることの方が不思議に思えるほどだった。

 だが、それについてはヴィルマーが説明をする。

「この町はもともとそんなに大きな町ではなかったんだ。この町を通過した先、西の森の手前にあと二つ小さな村があってな。その両方の村が魔獣に襲われて、そこにいた人々がほぼ全員この町に入って来て60年とかいっていたな……突然人口が増えたので、その頃のサーレック辺境伯がそれなりに人員と金を出して、突貫工事で町を拡張したんだ。だが、当時魔獣が各地の小さな村を襲う事件がいくつも発生したため、手が回らなくてな……魔獣の討伐部隊も結成して、やんややんや騒いだって話だが……」

 そう話しながらあちらこちらの店を案内するヴィルマー。すると、通りで遊んでいた子供の一人がヴィルマーを見つけて声をあげる。

「あっ! ヴィルマーだ!」

「ヴィルマー! おかえりなさい!」

 すると、わあっと子供たちが一斉に集まって来る。ヴィルマーは「おいおい」と言いながら、一人ずつ頭を撫でたり「妹は元気か?」と語りかけたり、子供たちの相手をすることになってしまった。クラウスはミリアたちに「この通り、子供たちに好かれる人でして」と小さく笑う。

「良いことですね。子供たちに慕われている人に、悪い人はそうそういませんし」

 とミリアが返せば、クラウスは眉を軽く寄せながら「ふふ」と笑う。

「やはり、女性の2人旅となると、疑っていらっしゃいますか。我々のことを」

「いえ。今はそうでもありません」

 もちろん、ミリアの言葉は「最初は疑っていた」という意味だ。クラウスはその答えが気に入ったようで「あっはは」と声をあげてから、話を続ける。

「それは良かったです。勿論、警戒心は必要です。この町でもそれなりに。ですが、我々はヴィルマーがお話ししたように、サーレック辺境伯に雇われて巡回に来ているだけです。むしろ、何かあればいくらでもお声がけをいただければ、と思います」

「ええ。わかりました。わたしたちは本当にこの町のことも、サーレック辺境伯の領地についても何もかもわからないことばかりですので、力を貸していただけると幸いです」

「ええ、勿論です」

 そう言ってクラウスが軽く頷いたので、ミリアも「ありがとうございます」と返した。

「失礼かもしれませんが、ミリアさんたちはどちらからここまでいらしたのでしょうか? あっ、話したくなければ、それはそれで……」

「王城付近からです」
 
「王城! それは、それは本当に遠くからいらしたのですね。うわあ、そりゃあ本当に遠くから来たんだなぁ~」

 クラウスは言い方を変えただけで二度同じことを言っている。それに気付いてヘルマは吹き出して笑った。その笑いに、クラウスは「あっ、同じことを言ってましたね……」と恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべる。

「おおーい、クラウス、こいつらをはがしてくれぇ~……!」

 すると、情けないヴィルマーの声。見れば、ヴィルマーの肩の上にも、腰にも、それから腕にも子供たちが掴まったりぶら下がったりでいいように遊ばれている。クラウスはそれを見て「まだ明日も明後日もいるから、今日のところはこれで……」と先延ばしにするようなことを子供たちに言っており、それがおかしくてミリアとヘルマはもう一度笑った。
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