さよなら尾崎くん
「分かったぞ。これはホログラムだ。どこかの工業大学の学生たちが、悪戯で投影してるに違いない。その辺を隈なく探せば、きっと犯人が」
雄弁に仮説を唱えていた尾崎君だが、今度は彼が言い終えることが出来なかった。異変に気付いて目を移すと、小さな可愛らしい女の子が、左手をしっかと握っていた。見たところ外傷はないようだが、顔に生気は無くて、朝顔のように青白い。おそらく病気で他界した幽霊なのだろう。女の子と向き合っていた尾崎君は、ふいに瞼を閉じると、何かを悟ったように呟いた。
「苦しむ人の声を聞ける大人になれ……か。こんな場面で酷なことを思い出すな」
彼が言ったことには聞き覚えがあった。それは、尾崎君のお母さんがバス停で別れ際に言ったことだ。持ち前のカガク論を熱く語っていた情熱が、次第に消えていく。彼の身を案じて、再び声をかける。
「尾崎君!それと馴れ合っては駄目だ!きっとただでは済まないぞ!」
敷地外から必死に叫ぶ僕に、口元を綻ばせて応える尾崎君は、女の子を抱き上げて言った。
「カガクよりこっちに興味が出た。ちょっと行ってくるよ」
背中を向けて歩き出した彼は、幽霊たちを引き連れて暗闇に消えていった。僕と恵はどうすることも出来ずに見送ることしか出来なかった。翌朝、友人たちに調べに行ってもらうと、彼の片方の靴だけが、芝生の上にひっそりと置かれていたという。
了