結婚前夜に殺されて人生8回目、今世は王太子の執着溺愛ルートに入りました!?~没落回避したいドン底令嬢が最愛妃になるまで~

プロローグ

 もうすぐ日付が変わろうとしている、二十三時五十分頃。
すっかり静かになった屋敷の自室で、私は窓から空を見上げた。今夜はあまり星が出ておらず、ただ光のない夜の色が無限に広がっている。
 ずっと見つめていると、この闇に吸い込まれてしまいそうだ。そんな不安がふと襲ってきて、私は空を見るのをやめる。
 今夜は私にとって、独身最後の夜だ。
 私は明日、一年ほど婚約関係だった相手と正式に結婚する。両親もとても喜んでくれ、ついさっきまで前祝といって屋敷で家族だけの小さなパーティーを開いてくれたほどだ。
 婚約者のことは、正直そこまで好きではない。姿を思い浮かべても胸がときめくことはなかったし、彼との結婚を心から喜んでいるわけでもない。
 しかし、貴族というのは政略婚が当たり前の世界だ。想い人と結婚できるケースは珍しい。
 恋愛感情がなくとも、尊敬できるところがあればそれはひとつの〝愛〟に変わるはず。
 私は結婚に関して、常にそうやって前向きに考えるようにしていた。そのほうが、幸せな未来に近づくと思っているからだ。
 幸せになりたい。周りから羨ましいと思われるような幸せでなくていい。ただ、平和に毎日笑顔で暮らせれば……ただ、無事に明日を迎えることができればそれでいい。
 ――どうか、私に平和な明日がやってきますように。
 私はベッドの中で、そう強く願った。そしてうとうとと眠気がやってきたところで、ひたひたと、誰かが近づいてくる気配を感じる。
 そして身体を起こそうと思った時には、既に遅かった。なぜか痛みはないけれど、胸のあたりがひどく熱い。熱くなった場所に触れれば、手には真っ赤な血がべったりと張り付いている。
 ……ああ、やっぱりだめだった。これでもう何回目だっけ。
 助けを求める声も、もう出やしない。ぼやけた視界から見えるのは、血を浴びた金色の髪と、光を失って濁ったアクアマリンのような瞳。
 どうして、あなたはいつも私を殺すの? ねぇ……。
「どうして」
月夜に照らされ、絶望する彼がぽつりと発したその声が、私の心の声と重なった。

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