結婚前夜に殺されて人生8回目、今世は王太子の執着溺愛ルートに入りました!?~没落回避したいドン底令嬢が最愛妃になるまで~

ループ7回目、今度は逃げません


 また同じ朝を迎えた。
 血のついたはずの手は真っ白で、身体のどこも痛くない。外からは鳥のかわいらしい鳴き声が聞こえ、空は快晴。
 なんとも気持ちよく、清々しい朝だ。……これが、何度も見た光景でなければ。
 ――私、エルザ・レーヴェは、なぜか結婚前夜にいつも同じ人に殺されて、この日に戻ってくる。そう、王立学園を卒業して一週間後の朝に。
同じ朝食を食べ、同じ会話をし、また部屋へ戻ってくる。そこで、私は大きなため息を吐く。ここまでがループした日の朝のルーティーンである。
「……また結婚できなかった~~っ!」
 侍女に紅茶だけ用意してもらい、部屋でひとりになった私はベッドに突っ伏した。
 もうループも七度目だ。最初こそなにが起きているのかわからなかったが、ここまで来るとループすること事態にはすっかり慣れてしまっている。
「やっぱり、結婚するまでこのループは続くのかしら……だからこの日にループしているのよね……」
 私は二度目のため息を吐く。
今日は王家主催のパーティーが開催される日で、私が最初の人生で本格的に婚活を始めた日なのだ。そしてそれは、何度ループしても変わらない。私が婚活をしないなんて選択は、今世でもありえないものだった。私にとって結婚というのは、人生で切り離せないものだから。
 元々、私は生まれてすぐ両親を失い、小さな村にある孤児院で育ってきた。そして九歳の時、慈悲のある優しいレーヴェ伯爵と夫人に引き取られた。ふたりは既に跡継ぎとなる男の子を生んでいたが、その子の姉となる存在を望んでおり、私が選ばれた。
 それからは三つ下の弟、アルノーと一緒に、毎日たくさん遊んでたくさん勉強した。本当の姉弟のように仲良くなり、伯爵と夫人も、私を実の娘のようにかわいがってくれた。弟と差別することもなく、平等に愛を注いでくれたのだ。
 だが、ちょうど私が十六歳の頃。そんな優しい性格が仇となり、伯爵――お父様は、商談で大きな詐欺に遭い、領地経営が困難となった。所持していた領地を他所に引き渡すこととなり、私たちの生活は一変。爵位こそあるも、決して裕福とはいえなくなった。
 私は元々孤児院育ちのため、貧しい生活には慣れていたし、白い目で見られたとしても平気だった。
温かい食事と家族、住む場所さえあれば、それは貧しい生活とは思わなかった。でも、アルノーはそうもいかなかったようで、急な環境の変化に心を病み、ふさぎ込むようになってしまったのだ。
 たしかに貧しい環境になった途端、煌びやかな貴族の世界とは距離を置かざるを得なくなった。社交の場へ行くための新しい衣服も買えず、いつも同じような服を着て行けば馬鹿にされ、次第に自ら足が遠のく。
馬車も小さなものが一車あるのみで、ほとんど両親の仕事のために使うことが多く、必然的に出かけることは少なくなった。
 そのため、私も入学したての学園で、クラスメイトからの誘いに応えることができず、気が付けば進んでひとりでいるようになった。私はひとりが結構好きだったため、全然苦ではなかったし、周りも私が好きでひとりでいるのだと解釈していたと思う。学園生活は、それなりに楽しませてもらった。
しかし、その間もアルノーは部屋に引きこもり元気がないまま。弟の姿を見ると、とても胸が痛い。そして両親も我が子にそんな思いをさせた自分たちを責めている。
 あんなに笑顔の絶えなかった屋敷から、笑顔が消えた。 
 そして私は、どうしてもまた、私をここまで貴族として育ててくれたレーヴェ伯爵家に恩返しをしたかった。
 ……そのために私ができることといえば、少しでもいいところの令息と結婚すること。
 貧しくなったといえど、伯爵という身分は変わらない。うちの援助を僅かでもしてくれるなら、私はどんな相手でも迷わず結婚する。それに私が嫁げば、娘ひとりぶんを育てるお金も浮くだろう。そうすれば、アルノーも今よりはいい生活ができる。
 アルノーもまた、お父様に似て優しい性格をしている。それゆえに、傷つきやすくとても繊細だ。だけど、弟ならまたこの伯爵家を立て直してくれると信じている。ならば私もできることをやりたい。
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