結婚前夜に殺されて人生8回目、今世は王太子の執着溺愛ルートに入りました!?~没落回避したいドン底令嬢が最愛妃になるまで~
「冷たくしていたつもりはない。ただ、エルザを見ると緊張して顔が強張る。かっこ悪い俺を見られたくなかったんだ」
「……はぁ。だとしても、あれは好きな子に対する態度じゃあないよ。僕は君が恋をするとここまでダメなやつになるとは知らなかった」
 怒りが落ち着いたのか、アルベルトはソファにずるりと倒れ込んで大きなため息をついた。同感だというように、ベティーナが何度も深く頷いている。……なんだか腹が立つふたりだ。
「エルザちゃんは完全に誤解してるよ。君がベティちゃんと一緒にいるために、建前上だけで自分と結婚したって。ま、エルザちゃんもエルザちゃんで、家族のために結婚したみたいだけど」
「家族? エルザがそう言っていたのか?」
 お飾り妻でもいいから俺の妻になりたいと思ってくれたのでは……なんて淡い期待は、アルベルトの一言で瞬時に消え去った。
「まぁ、はっきりとは言ってないけど、考えたらわかるだろう。エルザちゃんは完全に政略結婚だと思ってるのは間違いないね。どうするの?」
「ノア様、私たちの関係も誤解されているようですし、こちらも早めに手を打ったほうがよいかと」
 ベティーナも、俺に誤解を解くよう助言する。そんなこと、言われなくてもわかっている。
「いっそこの二週間の話を直接してあげたらいかがです? エルザの好みを両親に聞き出しノア様直々に家具を揃え、抱き枕のテディベアは凄腕の職人に特注で作らせたこともすべて!」
「……おいノア、最近やけに忙しなくしてると思ったら執務の合間にそんなことをしていたの?」
 アルベルトが白い目で俺を見る。執務を放棄したわけではないのだから、その合間になにをしたって俺の勝手だろう。彼女がぬいぐるみを抱き枕替わりにしていることは、幼い頃聞いており覚えていた。
抱き心地をいちばんに考えて作らせたテディベアが出来上がった時は、エルザがこれを抱きしめて寝ることを想像するだけで幸福感で満たされた。もっと言えば、俺がこのテディベアになりたいとすら思ったのはベティーナにも内緒にしている。本来ならエルザ好みにうさぎで制作したかったのだが、型がないため間に合わないと言われて泣く泣く断念した。
「エルザに喜んでもらえるなら、俺は何でもする」
 そう言うと、ベティーナとアルベルトが目を見合わせて呆れた表情を浮かべる。
「それをそのまま、エルザちゃんに素直に伝えたらどう?」
 そして、アルベルトが頬杖をつきながら俺に言った。
 ――正直、晩餐から驚きの連続ではあったが、この場で真実を知ることができて助かった。言ってみれば、すべての原因は俺がこれまで素直に自分の好意を表に出せなかったことにある。
 かっこ悪い姿を見せたくないと思うあまり、結果、いちばんかっこ悪くなってしまった。だが、このままでは絶対に終わらせない。
「わかった。明日、きちんとエルザに俺の気持ちを伝える」
 結婚してから愛をイチから育むなんて、おかしいかもしれないが。
 それでも俺は、結婚(ここ)から始めたい。新しい俺とエルザの関係を。……ふたりが別々にではなく、共に幸せになる未来のために。
 

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