結婚前夜に殺されて人生8回目、今世は王太子の執着溺愛ルートに入りました!?~没落回避したいドン底令嬢が最愛妃になるまで~
「え、違うの? だってノア、在学中あきらかにエルザちゃんだけを避けていたじゃないか。ほかの令嬢にはにこにこしてるのにエルザちゃんの姿を見ると急に顔つきが険しくなったり、エルザちゃんを見つけると逃げるように去って行ったり……ほら、エルザちゃんがほかの男子生徒と話していた時なんかは、うるさいぞってものすごく怒ってたこともあったろう」
 アルベルトは思い当る節を丁寧にひとつずつ指折りながら述べる。
「僕は近くでそんなノアを見ながら、ノアはこの子が好きではないんだろうなぁって思ってたよ。ていうか、みんなわかってたと思う」
 ――俺がエルザを嫌いだと、みんなわかっていた?
 エルザに聞かれた時は、ただエルザは心配性で、俺の気持ちをきちんと確認したいがためにそのような不安をぶつけてきたのだと思っていた。在学中まったく会話もまともにできなかったから、そんな不安を抱くのも仕方がないと、俺も納得してその場できちんと訂正した。
 だが、ほかのやつらにまでそう思われていたなんて……それでは話が違ってくる。
 まったく逆の意味で周知されていたことを知り、俺は胸を衝かれ言葉を失った。親友のアルベルトがそう捉えるということは、俺の態度はよっぽどだったのか。しかし、それらすべて無意識にとった行動であり、俺にはエルザを睨んだつもりも、逃げたつもりもない。だが、エルザにも『ノア様に嫌われている』と思わせるほど、俺の態度はひどいものだったのか。 
「……いいですかアルベルト様、これから私がノア様自身もわかっていない不可解な行動をひとつずつ紐解いてさしあげます」
 茫然自失している俺を横目に、ベティーナが未だ床に尻をつけたままのアルベルトの身体をそっと支えて立ち上がらせながらそう言った。
「まず、エルザ様を避けていたのはエルザ様を想うあまり、どういう顔で接したらいいかわからず無意識に取っていた行動です。逃げたのも同じ理由からでしょう。エルザ様を見ると表情が険しくなるのは、愛しい彼女を見て緩んでしまう顔を見られたくなかったから。あと、わざとかっこいい表情を作ったあまり険しくなりすぎていた可能性もありえます。最後に男子生徒との件についてはただの嫉妬ですね。うるさいというのは男子生徒に対しての発言と、自分以外の男性と話している時に感じた自分の胸のざわめきに対してでは――」
「もうやめろベティーナ」
 俺はベティーナの話を聞いて、前髪をくしゃりとかき上げながらもうやめてくれと俯いた。長年俺の相談相手役を担ってくれただけはあるが、ここまで詳細を話されると他人に自分の心の中を覗かれているようでぞっとする。
「だが、そこまでわかっているなら俺に言ってくれればよかったんじゃないか? このままでは、まるで嫌っているように見えると」
「私のせいにしないでください。私は学園にいるノア様のおそばに常にいたわけではないのですから! 大体、今アルベルト様に聞いて初めて知ったことだらけです! ノア様がうまくいかなかった理由が、ようやくはっきりと理解できました!」
 俺とベティーナがバチバチと火花を散らし合っていると、アルベルトが間に割り込んでくる。
「ストーップ! 先に僕に質問させて。……ノア、ベティちゃんの見解は合っているのか? 本当に、君はエルザちゃんのことを?」
 未だ半信半疑な眼差しで、アルベルトは俺をじっと見つめた。 
 ベティーナ以外、誰にも打ち明けることができずにいた秘めた想いを改めて確認されるのは照れくさくもあった。
「……ああ。俺は……エルザが好きだ」
 返事をすると、アルベルトは目を丸くして、両手で頭を押さえると絶望したような表情を浮かべる。
「……嘘だろ。嘘だと言ってくれ」
 震える声で言うアルベルトを見て、まさか本気でエルザに惚れたのかと思い始めたその瞬間。
「どうしてこんな恋愛下手なやつが、僕より女性人気があるんだよ! 納得いかない!」
 悲壮感漂う雰囲気から一変し、今度は大きな声で怒りを露にしている。
「所詮顔か!? 身長か!? 王子様万歳ってか!? 僕だってノアさえ隣にいなければ、相当いい男なのに……」
 青筋を浮き立たせ、アルベルトは苦々しい表情のままぶつぶつとなにかを言っている。
「……女性人気? なんのことだ?」
「そのままだよ! ローズリンド王立学園のモテ男ランキングでいえば、万年君が一位で僕が二位。そりゃあ王家の血を引き見た目も成績もなにもかも完璧な君には適わないと思っていたけど……今の話を聞いたら納得がいかない! 僕のほうがよっぽど、女性の喜ばせ方を知っている!」
「? どうでもいい。俺はエルザだけ喜んでくれればいいし、ほかの令嬢からの好意はいらない」
「じゃあどうしてエルザちゃんには冷たくて、ほかの令嬢には王子スマイルを炸裂できるんだよ!」
 連続したツッコミに、アルベルトの呼吸がゼェゼェと乱れ始めた。
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