結婚前夜に殺されて人生8回目、今世は王太子の執着溺愛ルートに入りました!?~没落回避したいドン底令嬢が最愛妃になるまで~

波乱のパーティー

「エルザ、いい? 今回のパーティーは、私とノア様の噂は嘘で、ノア様はエルザにべた惚れっていうのを世間に知らしめるためのパーティーなんだからね?」
 今朝から言われ続けた言葉を、パーティー直前でまたベティに念を押すように言われる。
 今日は、私とノア様の結婚お披露目パーティーだ。これまた豪華な催しで、外国からも来賓があるとか。ローズリンドの上流階級の人々は、間違いなくほぼ全員集まるといっていいだろう。
「エルザ、聞いてる?」
「わかってるわ。でも、知らしめるってなにをすれば……」
 パーティー開始前、私の部屋で最後の化粧直しをしながらベティと会話を続ける。ベティはパフで私の顔におしろいを一定のリズムでポフポフと優しくたたき込むと、にやりと笑った。
「なんにもしなくていいわ。今みたいに、エルザはされるがままおとなしくしていればいいの」
「されるがまま?」
「ええ。だって、ノア様が今日のエルザを見たら勝手に暴走してくれるだろうから」
 ベティはドレッサーの鏡越しに私に微笑みかけると、パフとおしろいを片付ける。鏡には、結婚の儀同様、侍女やそれぞれの分野のプロたちによってめかしこまれた自分の姿が映っていた。
 今日は髪の毛をハーフアップにして、アクアマリンの天然石があしらわれたリボンモチーフのバレッタでとめられている。ドレスはノア様の髪色に似た、薄めのイエロー。前回とは形を変え、幼くなりすぎないようマーメイドラインのドレスに。身体のシルエットがくっきり出るが、首元が詰まった形なのでいやらしくならない。
「……なんだか今日の色合い、ノア様みたい」
 目立つ小物はほとんどノア様の瞳の色のアクアマリンで揃えられているあたりも、わざとだろうか。鏡に映る自分を見て改めて呟くと、ベティが「それが狙いよ」と得意げに言う。
「ちなみに、今回のドレスや小物はエルザが選んだことにしているから、話を合わせてちょうだいね」
「えっ? どうして? たしかにドレス選びに同行はしたけど、ほとんどベティが勧めてくれたものでしょう?」
 小物は用意してもらったが、ドレス選びだけはベティと一緒に行ったのだ。そこで、ベティに絶対この色がいいと言われ選んだのが、今回のマーメイドドレスである。
「いいからいいから。あ、もうすぐ時間ね。ノア様が待ってるから行きましょ」
 ベティに言われて時計を見ると、パーティー開始の十七時はもう十分後に迫っていた。廊下を歩き大広間の入り口へ向かう途中、窓から外を眺めると、ぞろぞろと来賓客が歩いているのが目に入る。遠目からでも私より美しい令嬢を何人も見かけて、自分がこのパーティーの主役でいることが急に恐ろしくなってきた。
 お客様が出入りするのとは別の入り口で、私はノア様と合流することになっている。数メートル先にある扉の前に立つノア様は、前回とは全然違う雰囲気の恰好をしていた。
 深い紺色のタキシードの襟元と背中には、夜空に星が輝くように繊細な刺繍が施されている。腰回りが程よく絞られているせいか、スタイルの良さがいつもより際立ち、足の長さが強調されていた。前髪を上げている影響で、普段より男っぽさが増して……ついでに、色気も増しているような。
 結婚の儀の時も見惚れたが、今回も同じように惚れ惚れとする。既にノア様の正装姿に視線を奪われながらノア様と合流すれば、ノア様が私を見て目を見開いた。
「……可愛い」
「えっ? あ、あの、似合ってますか?」
 開口一番に褒められたのは、嬉しくもあるが恥ずかしい。ノア様は私の質問に何度も頷いて、私がノア様に向けているであろう眼差しと同じ視線を私にぶつけた。
「ベティから、ドレスは君が選んだと聞いて楽しみにしていたんだが……その色にしたのか」
 ベティは既に、ノア様に半分嘘の情報を吹き込んでいたようだ。さすが仕事のできる侍女。ぬかりがない。私は心苦しさを感じつつ、ここは話を合わせることにした。
「はい。あ、後ろのバレッタも見てください。こっちはノア様の瞳の色なんですよ。なんだか、全身ノア様の色って感じで恥ずかしいですけど」
 ノア様の前でくるりと回って全身を見せると、ノア様が私の腕を引き寄せる。そのままぽふんとノア様の胸に飛び込む形になってしまい、私は不意打ちの抱擁に動揺を隠せなかった。
「……そうだな。こうして抱きしめていない時も、俺が君を包みこんでいるように見えて嬉しい。もしかして、エルザもそういうイメージで選んでくれたのか?」
「……えっと、たぶん?」
 私というより、ここまですべてベティの計算だろう。
「ありがとう。俺ももっと、かっこよくしてきたらよかった」
「なに言ってるんですか! ノア様は今日も素晴らしいですよ! いつもより大人っぽくて……私、今もすっごくドキドキしてます」
 ここまで密着していれば、ノア様に心臓の音が聞こえているかも。でも、ノア様の心臓もまた、大きく、そして早く脈打っているのが伝わってくる。
「そうか。それなら……もっとドキドキさせてもいいか?」
 ノア様は私の頬に両手を添えて、自分のほうへ向かせる。優しいだけじゃない、熱のこもった眼差しに射抜かれると、時間が止まったような感覚に陥る。ノア様が近づいてくるのがわかって、このままでは唇が触れてしまうほどの距離になるとわかっていても、ノア様の瞳に吸い込まれて動けない。
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