結婚前夜に殺されて人生8回目、今世は王太子の執着溺愛ルートに入りました!?~没落回避したいドン底令嬢が最愛妃になるまで~
「ノア様が私を殺していると知ってなお、私があなたと一緒にいた理由がわかった気がします」
 最初は、ノア様に殺されたくないって一心で婚約を持ち掛けただけだった。そこからノア様の気持ちを知って、好きだと言われて、それを信じられるようになったのも全部――。
「相手がノア様だから、ですね」
「……俺だから?」
「はい。私、ノア様は私に恨みがあって私を殺してるんだと思っていましたが、それでも受け入れられていたんです。普通、自分を殺した相手なんて憎くて仕方ないはずなのに。ノア様なら仕方ないかって思えた。たぶん、最初の人生でノア様が助けに来てくれたことを、頭の中の記憶でなく心が覚えていたんでしょうね」
 どこまで奥底に封じ込めても、完全には消せなかった記憶が――ノア様を嫌うことは間違いだと私に陰から教えてくれたのではないか。そんな風に考える。
「エルザはこんな俺でも、受け入れてくれるのか……」
 めずらしく泣きそうな顔をしているノア様を、いつもノア様が私にしてくれるみたいにそっと抱き寄せる。これが質問への答えだと伝えるように。
「……エルザ」
 ノア様はぎこちなく私の背中に手を回すと、私がいることを確かめるようにぎゅっと力を入れる。次第にどんどん抱きしめ返す力が強くなってきて、息苦しさを覚えてきたその時――扉の隙間からリックがこちらをじーっと見つめているのに気づき、驚いてノア様の身体をどんっと押し返してしまった。
「リック! そんなところでなにしてるの!?」
 私の声を聞いて、ノア様もリックの存在に気が付いて振り向く。
「……セドリック。部屋で大人しくしていたらよかったのに」
【遅いから様子を見に来ただけだ。邪魔するつもりはなかった】
 クールに言い放ちながら、リックは私の部屋に入ってくると、私の前にちょこんと座った。
【エルザ。改めて自己紹介をする。私の名前はセドリック。神と精霊の庭の主、簡単に言うと神様だ】
「は、え、ええっ!? 神様!?」
【騙していてすまない。おいノア、私の説明はしなかったのか】
「自分からしたほうがいいと思って気を遣ってやったんだ」
 精獣だと思っていたリックが、まさかの神……。ノア様がさっきの会話の中で神様に協力してもらったって言っていたのは、リックのことだったのね。
【私はノアの願いを叶えるために、一時的にノアと契約をしたんだ。だから、ノアの住む王宮から離れられなかった。……エルザ、私が過去お前の運命を動かしたことでこんな目に巻き込んでしまってすまない】
「どういうこと?」
 リックはまだ私が幼い頃、ノア様のとある願いを叶えやすくするために、本来なら私に起きる予定のなかった出来事を起こしたという。
【本来レーヴェ伯爵家に引き取られるのはベティーナだったんだが……私がエルザになるよう運命を変えたんだ。そうすれば、エルザは優しき当主の貴族となり幸せになれると。ついでにノアと再会できると思ってな】
「リックの仕業だったの!? ……おかしいと思ってたの。直前に変更されたから」
 本当ならば、私は伯爵令嬢にならない未来が待っていて、ベティーナは侍女にならない世界が待っていた。……今とはまったく違う人生になっていただろう。お父様にもお母様にもアルノーにも会えない人生など、今となっては考えられないが。
【だが、まさか私の作ったチャンスをノアがあそこまで活かせないとは思えなかった】
「……」
【めずらしいな。お前が反論しないとは】
 ノア様も自覚があるのか、リックになにを言われても無視を決め込んでいる。
【だが結果的に、それがエルザの不幸を招いてしまった。悪かった。あれは私の大きなミスだ】
 リックが申し訳なさそうに首を垂らすも、私はすぐに謝罪を否定する。
「そんなことないわ。私、レーヴェ伯爵家の娘になれて幸せだったもの。お父様とお母様は超がつくほどお人好しだけど実の娘のように育ててくれて、アルノーも私を大好きだと言ってくれる可愛い可愛い弟よ。あの人たちに出逢えない運命なんて嫌だわ」
【……エルザは優しいな。その優しさに付け込まれたせいで……死ぬほど男運が悪かったわけだが】
「うっ」
 まさかのタイミングで痛いところを突かれ、胸にぐさりと言葉の矢が刺さる。
 ノア様の話を聞いて、私は自分の男性の見る目のなさに絶望したくらいだ。そんなにやばい男性ばかりと婚約していたなんて知らなかった。家族もみんなお人好しだからか、誰も疑おうともしなかった。
 言われてみると思い当る節がたくさんある。ユベールと一緒に生活した時にやたら体調を崩していたのは試薬のせいだと知った時は、鳥肌が立った。
「エルザが結婚を急いでいるっていうのが、どこかで広まっていたのかもな。それをあくどい欲を抱いた奴らが嗅ぎつけたんだろう。どちらにせよ、今世ではこの後すぐ全員アルベルトに調べさせる」
 アルベルト様の仕事を増やして申し訳ないが、私でないほかの犠牲者が出る前に、早急に捕まえてほしいものだ。ノア様も国の名誉のためにもすぐさま対応すると言ってくれてほっとする。
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