天帝の花嫁~冷徹皇帝は後宮妃を溺愛するがこじらせている~
「天の神はどうして私たちを助けてはくれなかったの……?」

 私の瞳から一粒の涙が零れた。どうしてあんな惨(むご)いことが起こってしまったのだろう。納得いかない気持ちが溢れてしまった。

 すると、老人は私を慰めるどころか叱責するような厳しい言葉を投げかけた。

「どうして他者に救いを求める。どうして強き者が弱き者を助けることが当たり前だという思考になる。なぜ自分では動かない。弱き者が損をする世の中を嘆くなら、自らが強き者となり助ければ良いだろう。神に全てを任せる前にやるべきことがある。神はなんのために存在するのか、それを考えろ」

 頭のてっぺんから稲妻が落ちたような衝撃だった。天からお叱りを受けた気分だ。

(そうよ、私はなにもしてこなかった。ただ理不尽な現実に嘆くだけだった。悪だくみをする人物がいるなら、それを防げるくらい頭が良くなればいい。力でねじ伏せようとする者がいるならば、それ以上に強くなればいい。

頭も良くない、力も強くない、なにも勝るものがないならば、せめてできることを一生懸命するしかない。自分の力で世の中を切り開くのよ。強き者になれないのなら、強き者を支える人になればいい)

 私は自分のことをわかっているつもりだ。力では男に勝てるわけもなく、雲朔のように賢くもない。一芸に秀でたものもなかった。でも、意思の力だけは誰にも負けないくらい強い自信があった。

「ありがとうございます、自分のやるべきことが見つかりました」

 私が礼を述べると、真眩鏡は黒くなり、老人の姿は映らなくなっていた。
 
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