天帝の花嫁~冷徹皇帝は後宮妃を溺愛するがこじらせている~
 僕が耳を澄ますと、聞いたことのある声が怒鳴っていた。

「探せ! 必ず見つけだせ! 雲朔の遺体を持ってこなければお前たちの命はないぞ!」

(僕を探している……!)

 声の主は宰相の盾公だった。

玉璽ではなく僕を探しているのは、考えてみれば必然だった。玉璽が必要となるのは、盾公が皇帝になってから。それまでは玉璽のことなんて考えもしないだろう。皇位に就くために重要なことは山ほどある。

しかし、ついに皇帝となった時、玉璽の重要性を思い知るのだ。玉璽がなくても皇帝にはなれる。

だが、歴代から続く由緒正しき玉璽を失った皇帝は、民たちからの信頼が薄まる。皇帝を決めるのは天命であるという考えが根付くこの国で、玉璽の存在というのはそれほど大きい。

軒轅鏡を故意に落とし、これが天命であると声高に言い放ち、敵となりそうな勢力を皆殺しにしようとしている盾公。

天からの授けものであると考えられている玉璽を失い、慌てふためく様子を想像して溜飲を下げる。

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