888字でゆるいミステリー
第九話 「隣のタカヤ君」
タカヤ君の隣の席になった。
タカヤ君は授業中お笑いのネタを書いている。
先生に指されても当然答えられない。
でも変なことを言ってクラスの皆と先生を笑わせて、いつも許されてしまうから不思議。
タカヤ君はいつもクラスの人気者だ。
算数の時間、タカヤ君が当てられた。
珍しく面白い返しが出てこないタカヤ君に、私はこっそり答えを教えてあげた。
授業が終わった後、タカヤ君が話しかけてきた。
「サンキュー、真野さん。またテンパってたらカンペ頼むわ」
カンペって!
あ……、そうだ。
「それ見せてくれたら良いよ」
「ええっ、これは芸人の魂だよ」
「ちょっとだけ。ネタってどう書くのか興味あるんだ」
「じゃあ少しだけ。最近事務所がうるさくて」
「ふふっ」
タカヤ君のネタ帳は二人の筆跡で書かれていた。
一人はタカヤ君。
もう一人はタカヤ君より拙い雰囲気。
「こっちは字の誰?」
「あ〜もう終わり! 希少ミミズってやつ」
「それを言うなら企業秘密でしょ」
「ツッコミいけるね~」
「あはは!」
相方が誰なのか、タカヤ君は教えてくれなかった。
クラスの子でも学校の子でもないみたい。
一体、誰なんだろう?
しばらくしたある日、私のおじいちゃんが入院して、お見舞に行った。
病院で偶然タカヤ君を見つけた。
声をかけようと追いかけたら、小児病棟の一室に入っていった。
「兄ちゃん、これ面白くないよ」
「じゃあどうする?」
思わず覗き込んだ。
タカヤ君は、ベットの上の一回り小さい男の子とネタを作っていた。
部屋に張り出された名札。
相方って弟だったんだ。
「あっ、追っかけ?」
あっ、バレた。
弟くんに指さされた。
「あれ、真野さん」
「相方って弟だったんだね」
「俺は作家だよ。人気芸人には大抵優秀な作家が付いてるんだ」
「へー、それでタカヤ君ていつも面白いんだね」
二人は嬉しそうな、得意そうな顔で笑った。
帰り際に聞いたタカヤ君の話では、弟くんは手術にすっごいお金がかかる重い病気らしい。
芸人になってたくさん稼いで、弟の手術代を出してやるつもりなんだって。
何それ、全然笑えない。
けど、めっちゃいい話。
「タカヤ君、私をカンペ係やってあげる」
「えっ、マジ?」
「その夢叶うところ見たいな」