888字でゆるいミステリー

第十話 「アサ・リク・バディ3」

 


 地元に子供食堂ができるらしい。

 北小学校の側の増上寺の一角を借りて設立するそうだ。

 夏休みのラジオ体操の時、二人とも可愛がってもらった記憶がある。

 学校帰り久々に立ち寄ってみた。



「大きくなったね、アサちゃん、リクちゃん。

 せっかく来てくれたんだけど、急に補助金が下りなくなって……。

 町長の息がかかった団体が横取りしたんだ」

「横取り?」

「申請は私達の方がずっと前からしていたんだけど、南小学校の地区は町長の膝元だし、予算は限られているから、そっちが優先されたみたい」

「じゃあ、こっちはオープンできないの?

 そんなの納得できないよ、アサ!」

「リク、何があったの調べてみよう」



 調べてみてわかったのは、補助金を横取りしたのは町長の級友で設備会社をやっている原という社長。

 子供食堂の建設予定地やその近隣には怪しい話がチラホラ。



「子供食堂が三階で、一、二階が会社の事務所と倉庫って可笑しくない? 場所も子供の足では遠いし」

「運営する団体もまだ形だけで全然人もいないみたい」

「これって本当に子供の為?」

「制度を悪用したのかも」



 町長と原社長には未遂ながら癒着の前歴があった。

 以前に原社長が所持する土地を町で買い上げて保育園建設を計画したことがあるらしい。

 そこは見通しが悪く交通量が多くて、通園には明らかに危険な場所だったという。

 こいつはだめでしょ!

 早速、わかった事をネット記事とチラシにした。

 子供達はもちろん、近隣住民や保護者に拡散してもらった。

 さらに聞き込みをすると、子供達や保護者のほとんどが子供食堂ができることを聞いてもおらず、学校や保護者会になんの打診も相談もなかったらしい。

 補助金決定における不透明な経緯、町長と原田社長の身勝手な結託。

 補助金を横取りされた増上寺近隣の子供達の不満。

 町住民の困惑は次第に大きな反対の声になっていった。

 結局、原社長の団体への補助金は取りやめになり、当初の予定通り増上寺に補助金が託された。



「アサ、この写真いいね!」



 リクが手にしたのは、先日訪問した子供食堂で子供達がカレーを頬張っている写真。



「この子達が大きくなったとき、いい思い出になっているといいね!」

「だね!」











                                                          


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