パティシエ総長と歪な少女
「すごいね……でもその解釈はちょっと怖いかも。」
「俺も思った。でも、俺らが知っている浦島太郎の話は終わっていない。」
驚いて顔を上げる。
竜司くんが優しく微笑んでいた。
「うん……ハッピーエンドの世界線があったって良いよね。」
二人でくすくすと笑い合う。
髪を結ったままの竜司くんの美しい横顔が夕陽に照らされて赤く染まっていた。
鴉が時折鳴いて、日が暮れていくのを告げている。
「ふぁぁ……」
穏やかな空気に、眠気がまた頭をもたげてくる。
文化祭、疲れちゃったのかな。
「後夜祭まではまだ時間があるぞ、もう一回寝るか?」
竜司くんが自分の腿を示した。
「……悪いよ。」
「慣れない文化祭に疲れたんだろ、このまま後夜祭に行ったら体力切れでダウンするぞ。」
竜司くんの優しい声と眠気が相まって、思わず頷いてしまった。
「おいで。」
誘われるままに体を横たえる。
竜司くんがそっとカーディガンを私の肩に掛け直した。
竜司くんの体温を感じて安心する。
机に本を置いた彼は右手でそっと私の目を塞ぎ、左手で小さい子にするように、トントンと私の肩のあたりを優しく叩き始めた。
胸の奥から悲しみとも懐かしさともとれぬ不思議な感覚がせり上がってくる。
ずっと、このまま、安心していたい。
守られていたい。
ずっとずっと昔にも、こんな安心する感覚を味わったことがあるような気がする。
もう、忘れてしまったけど。
この温かい感覚に、長く長く飢えていた。
もっと、抱きしめられながら生きてきたかった。
人の体温を感じながら、生きてきたかった。
そんな人生だったら、私はもっと違ったのかな…?
「離れないで…。」
いつのまにか、私は眠りに落ちていた。