新そよ風に乗って ⑧ 〜慕情〜
「あっ! はい」
ボーッとしていたら、 高橋さんに言われて我に返り、 慌てて受付にファイルを出した。 暫く待っていると、 名前を呼ばれて胃カメラの検査の予約と説明を受けて、 その後、 検査室で採血、 CTを撮って会計でお金を払い、 院外処方箋を持って病院の目の前の薬局で、 薬が出来るのを待っている。
高橋さんは、 駐車場に車を取って来ると言って行ってしまい、 薬局で薬が出来るのを待っているようにとの事だったので、 1人で待っていた。
妊娠を邪険にした私……最低だ。
確かに、 タイミングは悪かったのかもしれない。 でも、 だからといって単純に手放しで喜ぶこと自体、 それも何だかおかしくない? 頭の中を駆け巡る、 自問自答。
薬を受け取って、 高橋さんを待っている間、 何とも言えない感情に苛まれた。 意味もなく、 病院で渡された検査予約の用紙に目を通す。 内容なんて、 殆ど頭に入って来る状態じゃなかったけれど、 胃カメラの予約日は2週間後。 再来週の水曜日……その頃には、 高橋さんは内示を受けているだろう。 アメリカの住まいなどを決めに行かなければならないから、 渡米する頃なのかな?
もし、 私が妊娠していたら……高橋さんは、 どうしたんだろうか? 私は、 どうしていた?
「お待たせ。 待ったか?」
張り巡らせていた思いを遮るように、 後ろから高橋さんの声が聞こえた。
「あっ! い、 いえ……」
「大丈夫か?」
「はい。 大丈夫です」
心配そうに、 高橋さんが私の顔を覗き込んだ。
今、 高橋さんに余計な心配をかけてはいけないので、 元気に振る舞おうとしてはみたものの、 やはり体調が良くないせいか、 負のスパイラルの方が勝っている。 気づくと、 先ほどの妊娠に対する冷酷な自分の正直な気持ちを、 思い出してばかりいた。
「お前の家に、 これから向かう。 今日、 明日は、 俺の家にいろ」
「えっ?」
てっきり、 このまま家に帰るつもりでいたので、 いきなりそんな事を言い出した高橋さんの顔を見た。
「また具合が悪くなっても、 1人じゃ困るだろ? それに、 俺もその方が安心出来る」
「だ、 大丈夫です。 薬も貰っていますし……」
正直、 1人で考えたかった。 色々なことが巡ってきて、 うまく消化しきれていない。
「そうしてくれ」
丁重に断るも、 高橋さんのそのひと言で、 すべては決まってしまった。 それ以上、 断る元気もなかったのかもしれない。
マンションに着いて着替えを取りに行き、 そのまま途中でお昼ご飯を食べてからスーパーで食材を買って、 高橋さんの家に向かった。
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