新そよ風に乗って 〜慕情 vol.2〜
「えっ?」
「昔の君は、 とても相手の事を思いやる気持ちを持ち合わせている人だった」
「……」
「そして、 何より人を信じる事の出来る人間だった」
「信じる?」
ミサさんは呆れたような言い方で、 吐き捨てるように高橋さんに聞き返した。
「そうだ。 確かに俺は自分の血を分けた子供に、 父親らしい事を何ひとつ出来ていない。 そして、 それはこれから先も同じだと思う。 しかし……俺は血を分けた子供だからこそ。 だからこそ、 俺はその生命力を信じたい。 否、 信じてやりたい。 それが俺に出来る、 精一杯の愛情だと思っている」
「貴博……」
「ミサ。 君は、 子供を信じていないのか? 自分の血が通っている子の生命力を、 信じてみようとは思わないのか? いろんな人を傷つけ、 犠牲にして、 それでも君はそれも子供の為と言えるのか? その子が成長して、 自分の為に弟か妹が出来た。 その為に、 いろんな人が傷ついたと知ったらどう思う? 綺麗事かもしれないが、 それはある意味人間の生きる摂理に反していると俺は思う」
「貴博。 私……」
「君は、 周りの人間を犠牲にしてまでも我が子を助けようとして、 肝心な自分の子供の人格をも葬り去ろうとしているんだぞ。 昔、 よく君は言っていた。 人を信じる事は素晴らしいと。 ミサ。 あの頃の君は、 何処に行ってしまったんだ? だとすると……あの時、 俺の子供を守るために。 そして俺の将来の為にと言って、 御主人に全てを預けた事は嘘になる。 それこそ、 君が俺に言ったとおり。 幸せになるために男を選んだというのは、 あれこそ君の本心だったんじゃないのか? それだとすると……君は、 御主人をも裏切った事になる」
「それは、 違うわ!」
ミサさんが、 少し声を荒げた。
「私は、 貴博に幸せになって欲しかったから。 だから……」
「今、 その時のような、 人を思いやる気持ちが君にあるか?」
「あるわよ」
「そうだろうか。 もし、 そうだとしたら……」
高橋さんは言い掛けて、 私の方を見た
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