新そよ風に乗って ⑧ 〜慕情〜
「えっ?」
「昔の君は、 とても相手の事を思いやる気持ちを持ち合わせている人だった」
「……」
「そして、 何より人を信じる事の出来る人間だった」
「信じる?」
ミサさんは呆れたような言い方で、 吐き捨てるように高橋さんに聞き返した。
「そうだ。 確かに俺は自分の血を分けた子供に、 父親らしい事を何ひとつ出来ていない。 そして、 それはこれから先も同じだと思う。 しかし……俺は血を分けた子供だからこそ。 だからこそ、 俺はその生命力を信じたい。 否、 信じてやりたい。 それが俺に出来る、 精一杯の愛情だと思っている」
「貴博……」
「ミサ。 君は、 子供を信じていないのか? 自分の血が通っている子の生命力を、 信じてみようとは思わないのか? いろんな人を傷つけ、 犠牲にして、 それでも君はそれも子供の為と言えるのか? その子が成長して、 自分の為に弟か妹が出来た。 その為に、 いろんな人が傷ついたと知ったらどう思う? 綺麗事かもしれないが、 それはある意味人間の生きる摂理に反していると俺は思う」
「貴博。 私……」
「君は、 周りの人間を犠牲にしてまでも我が子を助けようとして、 肝心な自分の子供の人格をも葬り去ろうとしているんだぞ。 昔、 よく君は言っていた。 人を信じる事は素晴らしいと。 ミサ。 あの頃の君は、 何処に行ってしまったんだ? だとすると……あの時、 俺の子供を守るために。 そして俺の将来の為にと言って、 御主人に全てを預けた事は嘘になる。 それこそ、 君が俺に言ったとおり。 幸せになるために男を選んだというのは、 あれこそ君の本心だったんじゃないのか? それだとすると……君は、 御主人をも裏切った事になる」
「それは、 違うわ!」
ミサさんが、 少し声を荒げた。
「私は、 貴博に幸せになって欲しかったから。 だから……」
「今、 その時のような、 人を思いやる気持ちが君にあるか?」
「あるわよ」
「そうだろうか。 もし、 そうだとしたら……」
高橋さんは言い掛けて、 私の方を見た
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