新そよ風に乗って 〜慕情 vol.2〜
「凄い人だったな。 大丈夫か?」
「はい。 大丈夫です」
カウンターの中に入ってしまえば、 取り敢えずは少し人の波から離れられる。
出国手続きの列に並び、 順番を待っていると高橋さんが振り返った。
「パスポート貸して」
「は、 はい」
「動かないで、 此処にいろよ」
「はい」
高橋さんにパスポートを渡し、 言われたとおり手続きしている高橋さんを見ながら少し後ろの方で待っていると、 暫くして高橋さんがまた荷物を持ってカウンターから戻ってきて私を手招きした。
どうしたんだろう? 
何か不備でもあったんだろうか? 
ESTAは、 行く前に有効期限を確認したらまだ1年以上あったんだけど……。
何で荷物を預けなかったんだろうと不思議に思いながら、 そのまま後をくっついて行った。
そして、 一度カウンターを出て奥のカウンターへと向かった。
「また、 此処で待ってて」
「はい」
高橋さんに言われたとおり、 少し後ろで手続きしている高橋さんの後ろ姿を見ながら何気なくふと上を見た。
えっ?
アルファベットで、 カウンターを表示してあるのは見慣れていたが、 此処ってニューヨークに出張に行く時と一緒のカウンター? 此処って、 ファースト、 ビジネスの出発カウンター……だよね? ちょ、 ちょっと待って。 嘘でしょ? どうりで、 カウンターがさっきの所より空いているはずだ。
ファースト、 否、 ビジネスだって、 そんな金額……私には高くて払えない。 まさか、 高橋さん。 アップグレードしていないよね? 無理だ。 私には、 そんな大金払えない。 ただでさえ、 エコノミーでもこのゴールデンウィークのチケット代は高いっていうのに。
会社の出張の時は、 会社経費だからまだいいけど……今はプライベート。 しかも、 高橋さんが全額立て替えてくれている。
待って。 そんな……どうしよう……。
パニックになりながら、 頭の中を1万円札が束になって舞っている。
すると、 程なくして高橋さんが手続きを終わって戻ってきた。
「はい。 パスポートとチケット」
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