新そよ風に乗って ⑧ 〜慕情〜
何事もなかったように高橋さんは、 私にパスポートとチケットを返してくれた。
受け取って、 慌ててチケットの内容を確認する。
「高橋さん。 これ……」
「ん? ああ。 普段だとハワイ便はビジネスどまりが多いんだが、 ゴールデンウィークだからファースト備えている機材便も飛んでいるらしい」
チケットの縁取りカラーも違う。 そこには、 ファーストクラスの表示。
「私、 本当に無理です。 今からエコノミーに席を換えてもらえないですか? いえ……私だけでいいんですけど」
もう、 必死に懇願した。 明良さん達も含め、 高橋さん達に付き合っていると、 幾らお金があっても足りない。 そんな生活、 私には出来ない。 明日から、 1日1食にしても1ヶ月暮らせない。 高橋さん達みたいに、 そんな高給取りではないもの。 
そもそも、 ファーストクラスだなんて、 何回エコノミークラスに乗れる金額だか。 貧乏性の私からすれば、 勿体ない。 その分、 ショッピングにまわしたい。 今は、 チケット代にそんな大金を注ぎ込めない。 否、 この先も……。
「いいから、 落ち着け。 お前の言いたい事は、 わかったから」
えっ?
私のあまりの慌てぶりに、 高橋さんが静かに言った。
我に返って、 リアルに現実を直視して先行き不安になりながら、 何度も高橋さんに同じセリフを言っていたらしい。
「フッ……。 料金は、 心配しなくていい」
「良くないです。 そ、 そんなことだったら私……行かれませんから」
ここは譲れないので、 毅然とした態度で高橋さんを見上げた。
「あのさ……その志と配慮は有難いんだが、 このアップグレードをやったの、 俺じゃないから」
「えっ?」
高橋さんは、 そう言いながらチョロッと舌を出した。
「あ、 あの、 どういう事ですか?」
「だぁかぁらぁ! 俺の兄貴は、 旅行会社だって言っただろ?」
本意ではないが、 高橋さんの言葉にゆっくり頷いた。
「さっきエコノミーのカウンターに行ったら、 兄貴から連絡が入っていたらしくて、 席がちょうど空いていたから、 向こうでチケットをファーストにチェンジしてくれたらしい」
「ええっ?」
高橋さんのお兄さんが……。 
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