奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)
* * *
軽快な足取りで、四日ほどの長旅を終え、ギルバート達はコトレア領に到着していた。
移動の間も全く問題はなく順調で、天候にも恵まれ、晴天の中、ギルバートは馬を駆けていた。
豊穣祭二日前なのに、今からでも行列ができ始めているコトレア領の領門での検問を終え、ギルバート達は、いざ、領主館へ。
今年は、セシルからの招待状があったおかげで、検問所での登録もスムーズで、領地内に入り、通行門前での確認も、断然、スムーズに終わっていた。
ここまでのプロセスは去年と同じで、あまり驚くことはなかった。それでも、セシルの領地なら、今年もきっと、ギルバート達は色々と驚かされることだろう。
今からでも楽しみだ。
コトレア領にやって来たからではないが、なぜか、まだ顔を合わせてもいないセシルの存在を近くに感じてしまうのは、ギルバートの感傷だろうか。
ここ数日だけは、会えない距離ではない。会えない理由は、疑いようもなく、セシルが超多忙だからだ。
セシルなら、ギルバート達に挨拶をする為に、豊穣祭前でも、ギルバート達に顔合わせに来るはずだ。それが短い挨拶の時間だとしても、完全にセシルに会えない状況とは全く違う。
ギルバートは、セシルのこととなると、本当に重症である。
邸の前にやって来ると、邸の執事だけではなく、見慣れた顔ぶれも揃っていた。
ギルバートは馬から下り、出迎えてくれている顔ぶれに向き合った。
「お久しぶりです。ようこそお越しくださいました」
「お久しぶりです、ヘルバート伯爵、ヘルバート伯爵夫人、そして、シリル殿」
邸の前では、セシルの両親と、弟であるシリルが、ギルバート達を出迎えてくれたのだ。
「皆さんもお変わりなく」
ヘルバート伯爵一家の面々も、去年と変わりなく、元気そうだ。
「ええ、ありがとうございます。セシルは席を外しているものですから、代わりに、私が挨拶をさせていただきました」
「そうですか。わざわざ出迎えありがとうございます。今年もお邪魔しますので、よろしくお願いします」
社交辞令でも、隣国の王子殿下であるギルバートの態度は礼儀正しく、騎士らしい律儀なものだった。
今回、ギルバートは、コトレア領に到着する時間帯を見計らっていた。あまり早過ぎず、邸に長く居過ぎず、それでも、混雑時を避け、セシル達にとっても面倒ごとにならないように、ちゃんと時間を合わせてきたのだ。
アトレシア大王国の国境となる領地は、コロッカル領だ。そこからなら、数時間でコトレア領に到着することができる。
コロッカル領には昨夜遅く到着していたのだが、一夜を開け、朝食と昼食を済ませてから、ギルバート達はコトレア領にやって来た。
午後を過ぎた時間である。
これなら、部屋に通されても、昼食の心配はないし、まだ明るい時間なので、メイド達の邪魔にもならずに、部屋で少し休憩を取れる時間だろうとの配慮である。
セシルは、両親と弟にも、邸の使用人達にも、ギルバート達の来訪を説明し、仕事を指示してあったので、そこまで、ギルバートが気遣う必要はなかったのだが。
ギルバートは、セシルの前で、お荷物にもなりたくないし、迷惑もかけたくない。礼儀正しく、騎士らしく、豊穣祭に招待してくれたセシルに心から感謝をして。
可愛らしい男心である。
部屋に案内され、メイド達がギルバート達の荷を解いてくれる。
それが終わり、全員が、ギルバートにあてがわれた客室に集まっていた。対の長椅子に、ギルバートとクリストフ、反対側に、残りの二人の護衛が座っていた。
椅子に腰を下ろし、紅茶を飲みながら、ほっと一休みできる。
ヘルバート伯爵一家は、(恒例のごとく)セシルから仕事を頼まれているようなので、先程の挨拶を済ませ、「すみませんが、失礼します」 と、ギルバート達と別れている。
夕食まで、ヘルバート伯爵一家とも、顔を合わせないだろう。
「ああ、ついにこの領地にやって来ましたねえ」
「ついに? 別に、旅路は問題なく、快調だったじゃないか」
「そう言う意味じゃありませんよ。もう、この日が来るのが長かったですからねえ。待ち遠しいこと」
待ち遠しかったのは、ギルバートの方だ。
そんな風に、わざわざ、指摘されなくても、自覚はある。
「いやあ、豊穣祭の料理が楽しみですねえ」
なるほど。
ギルバートだけが豊穣祭にやって来たかったのではなく、クリストフだって、実は、かなり期待していたのである。
いつも、ギルバートをからかっている癖に、「ギルバート様のついでに、コトレア領に行きますからねえ」 などと、よく豪語したものである。
黙って口を挟まない二人の騎士達も、実は、密かに大喜び。
昨年の理由は、経験があり腕の立つ護衛、が理由だった。二人の騎士の名は、アンドレアとガスである。
去年の豊穣祭で、それも他国のお祭りを参加することができたラッキーな二人は、今年もまた、ギルバートの護衛として、一緒に付き添ってくることができた。
コトレア領に慣れているから、という理由で。
大盛況を見せたこの領地の豊穣祭では、目新しいものばかりが売られていた。初めて食べる食事もたくさんあった。
だから、二人も、密かに、豊穣祭に参加できることを大喜びしているのである。
「それにしても、豊穣祭二日前でも、かなりの人数が移動しているようでしたね」
「そのようだな。もしかして、宿屋を確保する為に、早めに来ている観光客がいるのだろうか」
領門前で並んでいる行列を見る限り、商隊のような団体もいれば、個人で並んでいるような人込みもあった。数で言えば、半々と言ったところだろうか。
「商隊や商用でこの領地を通り過ぎるとしても、豊穣祭があるなら、と滞在を少し長めにしても、不思議はないしな」
「確かに、そうですね。この領地の豊穣祭は、とても賑わっていましたからね。機会があるのなら、せっかくですし、一日二日くらいなら滞在を伸ばすかもしれませんね」
この地のお祭りは、他の領地などで見られるようなスケールでもない。規模でもない。
観光客用に全てが準備されていて、楽しめるようになっているなど、中々、見られるお祭りではない。
「この領地の者は、明日も多忙を極めるでしょうが、我々は、一日、フリータイムができましたね」
全く何もしないで一日を過ごすなど、ギルバートにはものすごく珍しいことだ。
明日、一日、部屋にこもりっぱなしで、このメンバーだけでお喋りをするのでもなし、一体、何をしようか。
久しぶりの休暇だからゆっくりと寝坊する。――それも、無理だ。
日頃から慣れ親しんだ早朝の習慣が邪魔をして、何をしない休暇でも、ギルバートなら朝早くから目が覚めてしまうことだろう。
そんなことを呑気に考えていたギルバート達は、夕食に参加していた。
その場では、仕事を終えたらしいヘルバート伯爵一家が揃っていた。
「皆様、よくいらっしゃいました。皆様を歓迎いたします」
夕食時はセシルも一緒に参加できるようで、ギルバートの前にセシルがにこやかにやって来た。
――やっと会えた!
セシルの姿を見るなり、密かに、ギルバートの歓喜が上がるほど、心臓がスキップしていた。
「豊穣祭に招待いただきまして、ありがとうございます。今年もお邪魔してしまいますが、皆さんにお世話になります」
嬉しさを噛み締めながら、ギルバートが丁寧にお辞儀をする。スッと、後ろで控えている騎士達も一礼をした。
「私も皆様をもてなすことができて、嬉しく思います」
落ち着いた口調も、儚げで美しいその姿も、意志の強さを映した深い藍の瞳も変わっていないのに、ギルバートの目にはなにもかもが輝いて見える。
ズボン姿のセシルだって、あまりに久しぶりだ。
今夜は人数が多い為、夕食も大広間のダイニングホールでされる。
大抵なら、ギルバートの部下達は壁側で整列し、食事の間、護衛として控えているのが常だ。
でも、セシルはギルバートの部下達が食事に混ざることを忌避していないのか、今夜は、親切に、全員分の席を用意してくれた。
全員が席につき、食事がサーブされていく。
軽快な足取りで、四日ほどの長旅を終え、ギルバート達はコトレア領に到着していた。
移動の間も全く問題はなく順調で、天候にも恵まれ、晴天の中、ギルバートは馬を駆けていた。
豊穣祭二日前なのに、今からでも行列ができ始めているコトレア領の領門での検問を終え、ギルバート達は、いざ、領主館へ。
今年は、セシルからの招待状があったおかげで、検問所での登録もスムーズで、領地内に入り、通行門前での確認も、断然、スムーズに終わっていた。
ここまでのプロセスは去年と同じで、あまり驚くことはなかった。それでも、セシルの領地なら、今年もきっと、ギルバート達は色々と驚かされることだろう。
今からでも楽しみだ。
コトレア領にやって来たからではないが、なぜか、まだ顔を合わせてもいないセシルの存在を近くに感じてしまうのは、ギルバートの感傷だろうか。
ここ数日だけは、会えない距離ではない。会えない理由は、疑いようもなく、セシルが超多忙だからだ。
セシルなら、ギルバート達に挨拶をする為に、豊穣祭前でも、ギルバート達に顔合わせに来るはずだ。それが短い挨拶の時間だとしても、完全にセシルに会えない状況とは全く違う。
ギルバートは、セシルのこととなると、本当に重症である。
邸の前にやって来ると、邸の執事だけではなく、見慣れた顔ぶれも揃っていた。
ギルバートは馬から下り、出迎えてくれている顔ぶれに向き合った。
「お久しぶりです。ようこそお越しくださいました」
「お久しぶりです、ヘルバート伯爵、ヘルバート伯爵夫人、そして、シリル殿」
邸の前では、セシルの両親と、弟であるシリルが、ギルバート達を出迎えてくれたのだ。
「皆さんもお変わりなく」
ヘルバート伯爵一家の面々も、去年と変わりなく、元気そうだ。
「ええ、ありがとうございます。セシルは席を外しているものですから、代わりに、私が挨拶をさせていただきました」
「そうですか。わざわざ出迎えありがとうございます。今年もお邪魔しますので、よろしくお願いします」
社交辞令でも、隣国の王子殿下であるギルバートの態度は礼儀正しく、騎士らしい律儀なものだった。
今回、ギルバートは、コトレア領に到着する時間帯を見計らっていた。あまり早過ぎず、邸に長く居過ぎず、それでも、混雑時を避け、セシル達にとっても面倒ごとにならないように、ちゃんと時間を合わせてきたのだ。
アトレシア大王国の国境となる領地は、コロッカル領だ。そこからなら、数時間でコトレア領に到着することができる。
コロッカル領には昨夜遅く到着していたのだが、一夜を開け、朝食と昼食を済ませてから、ギルバート達はコトレア領にやって来た。
午後を過ぎた時間である。
これなら、部屋に通されても、昼食の心配はないし、まだ明るい時間なので、メイド達の邪魔にもならずに、部屋で少し休憩を取れる時間だろうとの配慮である。
セシルは、両親と弟にも、邸の使用人達にも、ギルバート達の来訪を説明し、仕事を指示してあったので、そこまで、ギルバートが気遣う必要はなかったのだが。
ギルバートは、セシルの前で、お荷物にもなりたくないし、迷惑もかけたくない。礼儀正しく、騎士らしく、豊穣祭に招待してくれたセシルに心から感謝をして。
可愛らしい男心である。
部屋に案内され、メイド達がギルバート達の荷を解いてくれる。
それが終わり、全員が、ギルバートにあてがわれた客室に集まっていた。対の長椅子に、ギルバートとクリストフ、反対側に、残りの二人の護衛が座っていた。
椅子に腰を下ろし、紅茶を飲みながら、ほっと一休みできる。
ヘルバート伯爵一家は、(恒例のごとく)セシルから仕事を頼まれているようなので、先程の挨拶を済ませ、「すみませんが、失礼します」 と、ギルバート達と別れている。
夕食まで、ヘルバート伯爵一家とも、顔を合わせないだろう。
「ああ、ついにこの領地にやって来ましたねえ」
「ついに? 別に、旅路は問題なく、快調だったじゃないか」
「そう言う意味じゃありませんよ。もう、この日が来るのが長かったですからねえ。待ち遠しいこと」
待ち遠しかったのは、ギルバートの方だ。
そんな風に、わざわざ、指摘されなくても、自覚はある。
「いやあ、豊穣祭の料理が楽しみですねえ」
なるほど。
ギルバートだけが豊穣祭にやって来たかったのではなく、クリストフだって、実は、かなり期待していたのである。
いつも、ギルバートをからかっている癖に、「ギルバート様のついでに、コトレア領に行きますからねえ」 などと、よく豪語したものである。
黙って口を挟まない二人の騎士達も、実は、密かに大喜び。
昨年の理由は、経験があり腕の立つ護衛、が理由だった。二人の騎士の名は、アンドレアとガスである。
去年の豊穣祭で、それも他国のお祭りを参加することができたラッキーな二人は、今年もまた、ギルバートの護衛として、一緒に付き添ってくることができた。
コトレア領に慣れているから、という理由で。
大盛況を見せたこの領地の豊穣祭では、目新しいものばかりが売られていた。初めて食べる食事もたくさんあった。
だから、二人も、密かに、豊穣祭に参加できることを大喜びしているのである。
「それにしても、豊穣祭二日前でも、かなりの人数が移動しているようでしたね」
「そのようだな。もしかして、宿屋を確保する為に、早めに来ている観光客がいるのだろうか」
領門前で並んでいる行列を見る限り、商隊のような団体もいれば、個人で並んでいるような人込みもあった。数で言えば、半々と言ったところだろうか。
「商隊や商用でこの領地を通り過ぎるとしても、豊穣祭があるなら、と滞在を少し長めにしても、不思議はないしな」
「確かに、そうですね。この領地の豊穣祭は、とても賑わっていましたからね。機会があるのなら、せっかくですし、一日二日くらいなら滞在を伸ばすかもしれませんね」
この地のお祭りは、他の領地などで見られるようなスケールでもない。規模でもない。
観光客用に全てが準備されていて、楽しめるようになっているなど、中々、見られるお祭りではない。
「この領地の者は、明日も多忙を極めるでしょうが、我々は、一日、フリータイムができましたね」
全く何もしないで一日を過ごすなど、ギルバートにはものすごく珍しいことだ。
明日、一日、部屋にこもりっぱなしで、このメンバーだけでお喋りをするのでもなし、一体、何をしようか。
久しぶりの休暇だからゆっくりと寝坊する。――それも、無理だ。
日頃から慣れ親しんだ早朝の習慣が邪魔をして、何をしない休暇でも、ギルバートなら朝早くから目が覚めてしまうことだろう。
そんなことを呑気に考えていたギルバート達は、夕食に参加していた。
その場では、仕事を終えたらしいヘルバート伯爵一家が揃っていた。
「皆様、よくいらっしゃいました。皆様を歓迎いたします」
夕食時はセシルも一緒に参加できるようで、ギルバートの前にセシルがにこやかにやって来た。
――やっと会えた!
セシルの姿を見るなり、密かに、ギルバートの歓喜が上がるほど、心臓がスキップしていた。
「豊穣祭に招待いただきまして、ありがとうございます。今年もお邪魔してしまいますが、皆さんにお世話になります」
嬉しさを噛み締めながら、ギルバートが丁寧にお辞儀をする。スッと、後ろで控えている騎士達も一礼をした。
「私も皆様をもてなすことができて、嬉しく思います」
落ち着いた口調も、儚げで美しいその姿も、意志の強さを映した深い藍の瞳も変わっていないのに、ギルバートの目にはなにもかもが輝いて見える。
ズボン姿のセシルだって、あまりに久しぶりだ。
今夜は人数が多い為、夕食も大広間のダイニングホールでされる。
大抵なら、ギルバートの部下達は壁側で整列し、食事の間、護衛として控えているのが常だ。
でも、セシルはギルバートの部下達が食事に混ざることを忌避していないのか、今夜は、親切に、全員分の席を用意してくれた。
全員が席につき、食事がサーブされていく。