奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)
 幸運なことに、ギルバートはセシルの隣の席に座ることができた。

 セシルの対面にはヘルバート伯爵が、その両隣に、母親と弟が座っている。

「副団長様、お久しぶりです。お変わりありませんか?」

「お久しぶりです、ヘルバート伯爵令嬢。私は、変わりありません。ご令嬢は、いかがですか? 豊穣祭前ですから、お忙しいのでは?」
「ええ、まあ、いつものことですけれど」

 その口ぶりから察するに、セシルは()多忙を極めているらしい。

「食事の後も、もしかして……お仕事がおありで?」

 食事の後は、毎日の報告会でその一日の締めくくりがされるが、豊穣祭前ではどうだろうか。
 去年も、ずっと忙しそうだったのを、ギルバートは記憶している。

「ええ、まあ、いつものことですけれど」

 この口調からも、食事を終えても仕事はまだまだ続くらしい。
 なんとも大変なことだ。

「移動はいかがでしたか?」
「問題なく順調でした。あの……、このようにご多忙な中、我々が訪問してしまいまして、ご迷惑ではありませんか?」

「そんなことありませんわ。ゲストをお迎えできて、私も嬉しく思いますもの。この邸には、ゲストが訪れることはほとんどありませんもの」

 それで、言葉通りに、心から、セシルはギルバート達を歓迎してくれているようだった。
 ほっと、内心で安堵の溜息が漏れてしまう。

「明日は、少々、慌ただしくうるさくなってしまうかもしれませんが、許してくださいね?」

「我々のことはお気になさらないでください。豊穣祭前日ですし、皆さんも最後の仕上げに忙しいことでしょう」

「今年は、去年より、数百人ほど多くの観光客を予想していますの」
「そんなにですか?! それは、すごいですね」

 大盛況のお祭りでもあるから、その数も頷けるものだが、それでも、そんなに大勢の観光客を予想していたなど、驚きである。

「宣伝もしましたし、周辺地域からの反応も上々のようですから、そのくらいの上昇を予想していますの。ですから、明日、最終の仕上げも確認も、しっかり済ませなくてはいけないものでして」

「そうでしたか。我々のことは、どうか、お気になさらないでください」
「ありがとうございます。皆様は、明日のご予定は?」

「予定はありません。皆さんが忙しい中、何もせず、申し訳ありません……」
「あら? 皆様はゲストですもの。仕事などせず、ゆっくりなさってください」
「ありがとうございます」

 食事の間でも、気軽な会話が続いて、ギルバートの顔が、つい、緩みそうになってしまう。

 会いたかったセシルが、今、目の前にいる。
 あまりに焦がれて狂ってしまいそうなほど待ち望んでいたセシルが、今、ギルバートと会話をしている。

 その声も、仕草も、物腰も、全てが全て――美しかった。(うるわ)しの美女、である。

 こうやって、セシルを見ているだけで、ギルバートの胸が満たされていく。

「皆様、明日はゆっくりと休んでいただきますが、お暇でしたら、ゲームなどいかがですか?」
「ゲーム、ですか?」

「ええ、そうです。娯楽の一つとして、ボードゲームを開発してみましたの」
「ボード、ゲーム? それは何でしょう?」

「サイコロを振って、ボード上で駒を動かしていったり、ストーリーなどに合わせて話を進めて行くものもありますの。今回は、無難なところで、「すごろく」 と「人生ゲーム」 を作ってみましたの」

 「人生ゲーム」 は、車がない時代なだけに、小さな四角い駒で馬車の代わりだ。小さな人型の人形を作るのにも一苦労で、子供が生まれた場合は、更に小さめの四角い駒だけにしている。

 「すごろく」 は作るのにも簡単で、子供用にどうかしら、とセシルはかなり期待しているものだ。

「すごろく……と、人生、ゲーム……? それは――想像にも及びません」

 セシルの領地で開発された品物など、ギルバートには、到底、想像もつかないものばかりだ。

 娯楽の一つとしてゲームを開発するあたり、セシルらしいと言えばそうなのだろうが、ギルバートなど、生まれてこの方、ゲームなどしたことはない。

「もしよろしければ、プレイした後、皆様の感想や評価などを聞かせていただけませんか? ボードゲームは、まだ、私の家族にも試してもらっていないんですのよね」
「それは、構いませんが」

 嬉しそうにセシルが微笑みをみせる。

「ありがとうございます。ボードゲームは、あくまで娯楽の一つですから、普段の階級など、あまりに気になさらずにプレイできるものです」
「はあ……」

 でも、貴族には無理だろうか?

 さすがに、貴族の立場や地位を越えて、最初に勝利をしてしまった人は、困ってしまうかも。

「ゲームの勝敗も、その時の運によるものが多く、実力とは関係ないものなのです」

 そこら辺も、(必死で) 付け足してみるセシルだ。

「いえ……。私は問題ありません。明日、部下達と一緒に試してみますので」

「ありがとうございます。感想は、思ったことを好きに述べてくださいね。嫌だったとか、面白くなかったとか、市場調査にとても役立ちますので」
「わかりました」

 どうやら、暇になりそうで、何をしようか迷っていたギルバートには、新たな課題が渡されたらしい。
 それも、娯楽のゲームなんて。

 セシルと出会ってからというもの、本当に、色々なことを挑戦してみたギルバートだ。人生初の経験も、たくさんした。

 今回の訪問でも、人生初の経験、がやってきたようである。
 それも、楽しみだ。




 翌日、ギルバート達は、セシルに頼まれた「ボードゲーム」 なるものをプレイすることになった。

 執事のオスマンドが木箱を運んで来て、その中から木のボードを並べ始め、サイコロも見せてくれる。
 全員が不思議そうに「すごろく」 のボードが並べられて行くのを眺めながら、サイコロにも初挑戦だ。

 丁寧な説明書もしっかりと読み終え、ルールもある程度理解した全員で、「すごろく」 大会である。

 途中、マスを3つ進む、4つ進む、5つ戻るなどなど、一回休みまで出て来て、全員が更に不思議そうである。

 一応、一回目のゲームは無事に終わり、それぞれの感想も、まだよく分からないままだ。

 ルールと説明書を照らし合わせて駒を進めていたので、ゲームを楽しめる感覚ではなかったのだ。
 それに、勝者は、ギルバートの部下の一人だ。

 ギルバートに申し訳なくて、ガスなど、ものすごく頭を低く下げていたほどである。

「いや。ゲームの勝敗は、ほぼ、その時の運次第だと、ご令嬢もおっしゃっていた。実力も必要ではないのに、済まなく思う必要はない」

 ギルバートにしてみたら、ゲームのやり方を覚えるのに必死で、それほど勝敗にこだわってもいなかったし、負けても悔しいとも思わなかった。

「よし。もう一度、やってみよう。次の時は、ある程度、ゲームの進め方も問題なくできそうだ」
「この「さいころ」 なるものは、便利ですね。なにか、他のことに使えそうな気がしてきました」

「そうか? 例えば、どんな?」
「数が並んでいますから、順番を決める時など」

 ああ、なるほど、とギルバートも納得する。
 そういう使い道もできそうだ。

 そして、四人は暇な午前中を使い、初めて挑戦する「すごろく」 を楽しんでいたのだ。

 さすがに、初心者に「人生ゲーム」 は難易度が高いだろうかと、それは保留にされたのだ。

 今日の休暇は、少々、変わった過ごし方だった。

 実は、感想や評価をもらう為に、セシルはすでにフィードバックの質問書を作っていたのだ。
 さすがである。

 真面目な四人の騎士は、きちんとフィードバックの質問書を答えてくれて、その回答を確認したセシルもホクホク顔である。

 今回、ボードゲームのお試しに、ギルバート達を選んだのは、大正解だったようである。

 回答を読む限りでは、あまり調整する必要もなく、「すごろく」 を市場に出すのは、そう難しいことでもなくなった。

「副団長様、今日はお時間をいただきましてありがとうございます」
「いえ。「すごろく」 なるものは、なかなか面白いものでした。全員で熱中しましたので」
「楽しんでいただけたようで、安心しましたわ」

 やったね、とセシルが内心でガッツポーズを取っていたなど、ギルバートも知る由もない。

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