奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)
* * *


 重い(まぶた)を開けてみると、もう、朝がやってきていた。

 カーテン越しでも、明るい陽射しが視界に飛び込んできて、ああぁ……と、セシルも溜息をこぼす。

「……疲れたぁ……」

 体が重い。動きたくない。だが、今日も一日が始まっている。
 寝坊をしているわけにもいかない。

 それで、仕方なく、モソッと、ベッドで起き上がっていた。

 すぐに、自分の視界に深紅の色が飛び込んできて、そこで、セシルの目が一気に覚めていた。
 まだ、ドレスを着込んだままで寝入ってしまったらしい。

 昨夜の記憶をたどって見ても――馬車に乗り込んだ後からの記憶がない。
 そうなると、馬車に乗り込んで、グースカ寝入ってしまったらしい。

 ベッドの横にあるサイドテーブルの上の呼び鈴を鳴らすと、すぐに、オルガが寝室に入って来た。

「おはようございます、マイレディー」
「おはよう、オルガ」

 オルガがベッドの側まで進んできて、セシルの前で一礼した。

「お疲れなのですから、もう少し、お休みになられたらいかがですか?」
「いえ、もう大丈夫よ。それより、一体、誰が、私をベッドに運んでくれたのかしら?」
「王国騎士団の副団長様でございます」

 うわぁ……!

 これは、セシルの大失態である。

 隣国の騎士団のあの二人の前で、グースカ寝入ってしまっただなんて。

 おまけに、熟睡――いや、爆睡して意識もないセシルを抱えて、わざわざ、ベッドに運んでもらっただなんて、なんて恥ずかしい失態をしてしまったのだろうか……。

 寝ている人間など、死体同然の重さである。
 きっと、セシルを運ぶのだって、ものすごく重かったことだろう。

 大失態である……。


(……うわぁ……、なんて、恥ずかしい真似を……。穴が入ったら入りたいですわ……)


 グースカ眠りこけている寝顔まで見られて、恥ずかしくて、今朝は、あの二人の騎士に会わせる顔がないが、朝食会には、あの二人も招待されている。

 逃げ道はない。

 ふう……と、息を吐き出して、セシルもそこで諦めていた。

「着替えます」
「かしこまりました」

 セシルはベッドから出ると、背中を緩めてあったらしいドレスの肩が、少しずつ滑り落ちてきた。
 そのままで、セシルはクローゼットの方に向かい、オルガが静々とセシルの後をついてくる。

「マイレディー、今日は仕事をなさってはいけませんよ。お疲れなのですから、きちんと休まれなければ、マイレディーが倒れてしまいます」
「そうですねえ……」

 ここ数週間の疲れが、ドッと、出てきている状態だけに、セシルも、今日はのんびりするべきか。

「今日は、孤児院の訪問だけにします」

 その返答にも、オルガはあまり賛成しているようでもなかったが、文句は出てこなかった。

 簡単に着替えを済まし、朝の身支度を終えたセシルは、その足で、客室が続く廊下を進んでいた。

 昨夜は疲れていて、速攻で熟睡してしまっただけに、自分がどんな状態で、顔で、グースカ眠りこけてしまったのか覚えていないし、分からない。

 考えたくもない、話題ではある……。

 あぁ、あまりにひどい顔で、寝こけてしまっていなければいいのだけれど……。

 別に、殿方に(こび)を売る気もないが、さすがに、赤の他人である隣国の騎士(おまけに王子サマ)の前で、グースカ眠りこける女などいないだろう。

 いびき……なんて、かいてないといいのだけれど……。

 ちょっと恥ずかし過ぎて、穴があったら入りたい心境ですねえ。




 すぐに、目的の客室のドアの前にやって来て、セシルは、一度、軽い深呼吸をする。
 トントンと、軽くドアをノックした。

 部屋の外で誰かが来たらしい気配は感じていたが、特別、警戒を見せていなかったギルバートとクリストフは、ただ、ドアの方に視線を向けていただけだ。

 すぐにクリストフが立ち上がり、ドアに向かっていく。

 扉を開けると、ドアの外にセシルが立っていたのを目にして、クリストフが、スッと、軽い一礼をした。

「お早うございます」
「おはようございます。朝早くからお訪ねしてしまいまして、申し訳ありません」
「いいえ。どうぞ、お入りください」

 扉を大きく開け、セシルを部屋の中に招き入れる。

 部屋にある長椅子に座っていたギルバートがセシルの姿を目にして、すぐに立ち上がっていた。

「お早うございます、ご令嬢」
「おはようございます。このように、朝早くからお訪ねしてしまいまして、申し訳ありません」
「いえ、お気になさらないでください」

 ギルバートもクリストフも、セシルが来る大分前から起きていて、着替えも済まし、朝の支度は済ませていたのだ。

 今朝は、豊穣祭後の恒例の朝食会があるから、朝食はいつもと違い、八時頃になる。それで、呼ばれる時間まで、二人は客室で時間を潰していただけなのだ。

「どうぞ、お掛けください」
「ありがとうございます」

 ギルバートの向かいの席を勧められ、セシルも簡単に腰を下ろした。
 ギルバートがそれを見て、またゆっくりと椅子に腰を下ろす。

「昨夜は、お二人にも、大変、ご迷惑をおかけしてしまいましたので、その謝罪を、と……。馬車の中で寝こけてしまいまして、本当に失礼をいたしました。おまけに、寝ている私をベッドに運んでくださって……。大変、ご迷惑をおかけいたしました……」

「そのようなことは、気になさらないでください。お疲れのようでしたので」

 疲れてはいた。

 だが、グースカ寝入っているセシルを抱えて、ベッドまで運んでくれたのは――この会話からしても、きっと、ギルバートなのだろう。

 熟睡している人間なんて死体並みの重さで、おまけに、グースカ寝こけている寝顔まで見られてしまって、最悪……である。

 ああ……、なんて恥ずかしい失態をしたものかしらぁ……。

「本当に……申し訳ありませんでした」

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