マフィアのお兄ちゃん、探してます

塾に潜入レッツゴー?

「せっ、先輩……! 待って、湊置いてきてるよ……?」
俺の声にぴたりと足を止めた先輩。
「その先輩ってやめてよ。今は敵同士だよ? 月羅って呼んで? あとタメ語ね」
有無を言わさない圧に負けて、素直に頷く。
「せ……じゃなくて、月羅、どこに行くの?」
ここは……住宅街?
「谷津世ゼミナールに行くんじゃないの?」
不思議そうな顔をして振り返る月羅。
そうだけども……。
「もう着くよ」
「あ、ありがとう……」
辺りを見回しながらついて行くと、谷津世ゼミナールの看板が。
「ほんとだ、あった! すごい! さすが月羅!」
思わずべた褒めしてしまった……。
すると、月羅はなぜか顔を真っ赤にして俯いた。
「月羅……?」
下から覗き込むように目線を合わせる。
「う、うん、大丈夫……はい、これ谷津世ゼミナールに入る用のパス」
月羅から渡されたのは、バーコードが書かれたカードキーと、リュック。
そしてばさりと被せてきたレモン色のウィッグ。あと茶色のカラコン。
「これを入口にかざすとピッて音が鳴るから、それで入って。『清水優太』って名前で体験入塾設定で予約しといたから。あとそのリュックに塾の荷物入ってる」
えっ……。
「なんで、そこまで……」
敵同士って言ってたのに……。
「敵同士とは言ったよ。けどさ、学校生活であんなに楽しかったのは千秋のおかげでしょ?だから普段のお礼だと思って、真宮月羅から受け取ってよ」
ありがたいな……。
「ほら、早く行っといでよ。あと5分で授業始まるよ?」
「えぇぇぇっ! 早く言ってよ!」
慌てて入口のドアに向かってカードキーをタッチ。
開いたのを確認して、月羅に手を振って中に入る。
「こんにちは」
中に入ると、お姉さんが迎えてくれて。
「お名前を伺ってもよろしいですか?」
「あ、えと、し、清水優太です」
危な……来栖白露って言うとこだった……。
「体験入塾の方ですね。では、こちらへどうぞ」
お姉さんに案内されるままついて行く。
「清水さんは学校のテストで合計何点でした?」
「370とかですかね……」
「でしたら……Bクラスですね」
お姉さんは満面の笑みで"Bクラス"の札があるクラスに案内してくれた。
「ありがとうございます」
「いえいえ。Bクラスは英語が稲瀬先生で、数学が有宮先生です」
ありみや……。
有栖じゃ、ない……。
てかこれどーしよう……このまま授業受けた方がいいんかな……。
オロオロしていると、ぽんぽんっと肩を叩かれた。
「……っ!?」
「何してんの?」
振り向くと、金髪ショートの男の人。
「あー、新入生? 名前何? 俺日向雷太って言うんだ! よろしくな!」
うあわわわ、速いし長い……!
「あ、どうも、よろしく……」
名前人にホイホイ伝えるのはマズイかな……。
一応偽名だし……。
「名前……ユータってのか!」
えぇえっ、なんでバレたの!?
彼が見ているのは俺の持っているカードキー。
あっ、名前が入ってるのか……。
マズった……。
「よろしくな、優太!」
ニコッと笑って手を差し出してくる日向。
「よ、よろしく……」
恐る恐る手を握り返す。
ふふん、とニヤつく彼は、先生が入ってきたのと同時に自席に着席。
「はいじゃあ今日も授業始めるぞー」
黒髪の……毛先がグレー。
目は明るい茶色。
見た感じめっちゃ若そう!
じっと先生を見つめていると、先生は不思議そうに俺を見た。
「あれ? 君……体験の子?」
「あっ、はい!」
「名前聞いてもいいか?」
慣れた手つきでプリントとペンを取り出す先生。
「えっと、清水優太です!」
「おっけ、優太ね……俺は稲瀬な」
稲瀬先生、か……。
「じゃあ早速小テストすんぞ〜。ワークしまえな〜」
う、小テストか……。
「合格点は80点以上。いつも通りそれ未満は再テストな。あ、優太は多分この範囲習ってないだろうから、60点でいいぞ」
えぇっ、優しい……!
なんか、すげぇモテそうな先生だな……。
テストが配られて、問題に目を通す。
……あ、簡単そう……!
中2の基礎が出来てれば解ける問題だ。
中2の応用をさらに捻ったみたいな感じ。
サラサラっとペンを走らせて答えを書き込んでいく。
「……はい、やめ! じゃあ、左右で交換して丸つけ〜」
日向と答案を交換して、丸つけを進める。
えぇっと、まる、まる、ばつ、まる……ばつばつ、まる……。
「1問10点な〜。合計出して名前の横に点数書いとけよ〜」
えっと、よ、40点っと……。
「はい、日向」
プリントを渡すと、何やら固まっている様子の日向。
「日向ー? これ、テスト……」
「お前……っ」
プルプルと拳を握りしめ、日向がバッと顔を上げる。
「超頭良いじゃねぇかよッ!!」
え? そんなことはないよ。
返ってきた答案用紙を見ると……100点。
「えええぇぇぇっ!」
なんと稲瀬先生まで目を見開いていて。
「お前すごいな……本当はAクラスだったんじゃないのか?」
「いえいえ、偶然ですよ」
これはほんと。
何問か選択問題もあったし、偶然当たっただけ。
「いいなぁ〜、高級チョコレート貰えるなんて最高じゃねぇか」
は?
高級チョコレート??
「塾の小テストで100点とったやつにはくれるんだよ!」
それちょっと大袈裟すぎない? って思ったんだけど、どうやら、小テストの1番最後の問題は高校生レベルになっているらしい。
なるほど。
でもちょっと目立ちすぎたかも……最悪。
そして英語の授業が終わり、10分休憩。
「優太、優太! ちょっとこっち来て」
職員室に呼ばれて行くと、稲瀬先生がニコッと笑って手招きしてきた。
「満点おめでとうな。これ、みんなにバレないようにな」
こっそりと手渡してくれたのは、かの有名なDから始まる高級チョコレート店のチョコの詰め合わせセット。
「あっ、ありがとうございます……!」
ぺこりとお辞儀をして職員室を出る。
数学の授業をするために先生が入ってくる。
……っ、え?
有栖じゃない。
有宮先生なはずなのに。
髪色も目の色も全く違うのに。
「真冬……兄」
お兄ちゃんに見えるのはなんでだろう。
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