マフィアのお兄ちゃん、探してます

捜索開始!

沈黙を破るように声を発したのは三角形のネックレスの人だった。
「まぁ、分担はこちらでは指定は致しません。それと、この子もきちんと解放させて頂きます」
良かった……!
悠里の手当もこれでできる!
「ただし、1日1人、誰かは人質になって貰わなければなりません。連続で同じ人が人質になるのはルール違反。今日はこの子にしますか? それとも他の方ですか?」
他のやつにすることをわかってて聞いてる感じがさらに腹立つ……。
「俺が……」
「俺が行く!」
えっ?
俺に被せるように声をあげたのは……海。
「海、お前……」
「いいの。……おい、悠里を早く離せ」
「……そんなに睨まないで頂けますか。……では、この子を解放致します」
四角形のネックレスの人がぱっと手を離した瞬間、飛びつくように悠里を抱き抱える。
ゆ、悠里……重いっ……!
筋肉質すぎて、俺には無理だ……!
湊と柊馬にバトンタッチして、俺はぱっと顔を上げた。
海……。
どうして自分から……。
海の手にガシャンと手錠がかけられるのをみて、ぐっと唇を噛んだ。
ごめん……っ。
明日は、俺が……。
「では、お先に失礼」
そう言葉と煙を残して、一瞬にして消えた。



悠里の目が覚めた頃。
「で、悠里から説明してもらおうか? あんなザコ、悠里なら秒殺だろ?」
湊が不思議そうに口を開いた。
「違うんだ……。柊馬と別れてから、真央さんに会って……武器を運ぶ手伝いを頼まれて……で、倉庫に入ってからの記憶が……」
頭を痛そうに抑えながら悠里は言う。
三角形は英語でtriangle。
四角形は英語でsquare。
ひし形は……なんて言うんだろう?
まぁいっか……。
「じゃんけんでこれからの人質になる順番決めよう」
星願の言葉にこくりと頷き、手を伸ばす。
「最初はグー、じゃんけんぽん!」
結果、明日から順番に湊、星願、僕、柊馬、悠里になった。
「今度は白露の番だな」
あっ……。
「白露じゃなくて、千秋、だろ」
柊馬に突っ込んだのは湊で。
「あ、ごめん……えっと、ち、千秋……?」
「うん」
なんか、申し訳ないな……。
変な気まで使わせちゃって……。
横髪を取って指にくるくる巻き付けながら柊馬を見上げる。
「お前の過去のことは、説明されたからなんとなくわかったけどさ……お前の兄のことは特に何にも教えてくんなかったやん。教えて」
頭をぽんぽんっと撫でられて、涙が零れそうになったのを慌てて拭う。
「も、もちろん! 俺のお兄ちゃん達はほんとに世界一でね!」
「そーゆーことじゃないわw」
そーゆーことって……どーゆーこと?
「ほら、なんかあんだろ? 見た目とか身長とか性格とか」
なるほど……。
「まず1番上のお兄ちゃんからお願い」
ペンとメモ帳を構えたまま星願が笑う。
「えっと、名前は有栖真冬。身長……は180ぐらいあるかな……?」
真冬兄を思い浮かべながら答える。
「真冬兄はとにかく大人でね! 仕草が大人っぽくて!」
真冬兄は間違いなくクール系。
買い物に行くだけでモデルのスカウトに捕まりまくっていたから……!
「なんか写真みたいななのない? あとは特徴とか」
スマホの中にあるかな……。
転校するたびに写真とか全部消してるからな……。
……あっ、1枚だけあった!
3人で桜の木の下でピースしてる写真。
これだけは持っていていい写真って言われていたっけ。
これは……俺の中学の入学式かな。
「見てみてっ! 右にいるのが真冬兄だよ!」
あんまり見せたくなかったけど……仕方ないや。
「うわ……すっげぇイケメン……」
でしょでしょっ!
自分のことみたいに嬉しくなる。
「こっちの左の人は? ……めっちゃ似てるね」
「立夏兄だよ!」
立夏兄ももちろんイケメン!
「3人ともくそ似てんな」
写真と見比べながら湊はそう言って笑う。
「ふふっ、仲良さそうだね」
「うん! めちゃくちゃ仲良いよ!!」
真冬兄はこれでもかってぐらい頭が良くて、テスト前は3人で勉強会したし、立夏兄は運動神経抜群でよく対決してたなぁ……。
「なんか聞いてないの? えっと、千秋」
「実は……数年前から連絡つかなくて……」
すると、目をかっぴらいてこっちを見る星願。
「えっ!? じゃあ一人暮らし!?」
「ううん、いとこのお兄ちゃんと一緒に」
ちなみに真冬兄と同い年。
すごく面倒見がいいんだ!
お仕事の都合で東京に住むことになって、本当は4人で暮らしてたんだけど……。
「えっ!? 蒼太さんってお前の兄貴じゃねぇの!?」
「あれ、言ってなかったっけ? 蒼太兄はいとこだよー」
湊とは何回も面識あるしな……あはは。
「その……蒼太? さんはマフィア?」
「ううん、システムエンジニア」
あまり深くは言えないけど……。
実は裏でマフィアのシステムを動かしてる、とってもえーらい人!
多分、アールアールもお世話になってたはず。
バルーンチャートはどうだろ?
「蒼太さんと千秋、顔似てて全然わかんなかった……」
一応蒼太兄も有栖家だからね……。
「で、話戻すけどいい?」
長引きそうだった話をすっぱり切った柊馬。
「それで千秋、お兄さんの行方に心当たりはある? なんか例えばお兄さんが好きそうな場所とか仕事とか」
場所……仕事……。
「えぇっと……真冬兄は甘いものが好きだよ! 頭良いからなんか学校の先生、とか? 立夏兄は元気っ子でスポーツ万能だから何かしらのスポーツのコーチしてるかも」
思いつきでそう言うと、ぱっと目を輝かせてスマホを操作し始める星願。
「ねぇ見てみて、この投稿!」
みんなで星願のスマホを覗き込む。
『新しくきた塾の先生若いしイケメンだしサイコーすぎるんだけどっ❣️ まじAセンセーしか勝たん〜✊💖✨』
「きっも……」
否定できなくて、柊馬に苦笑いを返す。
「このさぁ、"Aセンセー" って、"有栖" のAじゃない?」
た、確かに!
若くて……イケメン……。
あるかも!
塾の先生だし……ワンチャンあるなぁ……。
「その塾どこ?」
星願がスマホを操作する。
「えーっとね、谷津世ゼミナールだって!」
やつよ?
「お、結構近くじゃねーか」
湊もスマホを触りながら言う。
「じゃあ今から行こう!」
まだ夕方4時だし、大丈夫だよね。
キャップを被って上着を羽織る。
「行ってくるねー!」
「待てよ、俺も行くって」
湊が焦ったように俺の腕を掴んだ。
「1人で行けるよ? すぐそこだったし」
「いや、危ないから」
頑なに首を縦に振らない湊。
「わ、わかった……」
こくりと頷いたとき。
ガチャリと扉が開いた。
「どうも〜、こんにち、は……」
……え?
エメラルドグリーンのサラサラストレート。
ひまわり色の瞳。
決して高くない身長(悔しいけど俺よりも高い)。
つ……つっ……。
「月羅先輩っ!!」
なんで、月羅先輩がここに!?
「なっ……なんで白露がここにいるん!?」
あれ、先輩関西弁だ。
間違えた、みたいな顔をして額をぺちっと叩く月羅先輩。
「俺、アールアールに入ったんですよ」
言ってなかったっけ?
「初耳! ふざけんなっ」
ヘッドロックかまされて痛い……。
「なんで月羅先輩がここに?」
そう質問を投げかけると、一気に暗い表情に変わる月羅先輩。
「外出するときは俺の監視が必要みたい。ごめんね」
サラサラの髪をかきあげて、月羅先輩は首元に目をやった。
しゃらん、と長方形の飾りが揺れる。
「あぁこれ? これ付けてる人は全員幹部だよ」
ちなみに俺はrectangle、そう言って月羅先輩はネックレスを見せる。
「……それ、俺らに言って貴方になんの得が?」
柊馬が月羅先輩を睨みつけながら言う。
一気に空気冷えた……まじか。
「そんな睨まないでよ、怖いから。なんとなくだよ」
月羅先輩はそう言って俺の手を握った。
「えっ?」
「じゃあねっ!」
連れ出されるがまま俺はリビングを飛び出した。
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