腹黒御曹司の一途な求婚

モンスタークレーマー

 あっという間に春が終わり、だらだらと続くうだるような夏を乗り越え、ようやく暑さが和らぐ季節になった。
 私がアスプロ東京に配属になって、気がつけばもう半年が過ぎていた。

「すみません、美濃さん。急に入っていただいて……本当にすみません……」
「全然大丈夫ですよ。お気になさらず。お大事になさってくださいね」

 真っ青な顔で何度も頭を下げる『プレジール』の店舗責任者、羽田さんを宥めながら、私はバックヤードを立ち去る彼の後ろ姿を見送った。

 羽田さんが体調を崩して早退を願い出たのは、今日のランチタイムの営業が終わった頃。
 彼に替わる責任者が今日はシフト休だったため、私が急遽彼の代打を務めることになったので、今日の私は『プレジール』の一日店長だ。

 羽田さんはすごく恐縮していたけれど、こんなことはままあること。
 気にしなくていいのに……と思いつつ、タブレットで今月の売上目標に対する進捗を確認する。

(八十九パーで未達かぁ……今日、九十に持っていけたらいいよねぇ……)

 今日の予約は全てコース料理。
 アラカルト注文よりコース料理の方が客単価を高く設定しているので、今日の売上目標は無事達成できそう。ちょっと、一安心。

 けれども月次目標の達成に向けて、もう少し売上を積みたい。残念なことに、ここ最近の『プレジール』は目標未達の月が多いので。
 月末に胃をキリキリさせないためにも、今日少しでも売り上げを伸ばしておきたい。今月こそは何がなんでも挽回しないと……!本当に、切実に。
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