花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
「先週病院で見かけたから、昨日待ち伏せしたの」
「木花がそんなことするんだな」
彼は意外そうに言った。

「それで無理矢理聞いたの、目の病気だって。颯くんが主治医なんでしょ? 日本で症例が無いとか、放っておいたら失明しちゃう、とか、聞い——」
そこまで言って、言葉に詰まる。目からは涙がこぼれてきた。

「ごめん、どうしても……」
昨日も家に帰ってから、何度も泣いてしまった。
画家の彼が視力を失うかもしれないなんて、想像できない。

「俺が泣かしてるみたいじゃん」
颯くんはそれだけ言って、私が泣き止むのを待ってくれた。

「手術すれば治るよね? ……颯くんが手術してくれるんだよね?」
しばらくして泣き止んで、ハンカチを握ったまま彼の方を見て言った。

「お前って、そんなにあいつのことが好きなんだな」
私はコクリと頷く。

「手術するなら間違いなく俺が執刀することになるけど、受けるかどうかを決めるのはあいつだ」
颯くんの言葉にホッとする。
「櫂李さん、手術受けるって言ってた」

「……他には何か言ってなかったか?」
彼の質問に、櫂李さんの言葉がよぎる。

『菊月先生なら、君をちゃんと幸せにしてくれる』

「ううん、それだけ」
あの言葉は聞かなかったことにする。

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