花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—

第弐拾肆話 条件

***

櫂李さんと会った翌日の夜、私はファミレスの窓際の席で人を待っていた。

「お待たせ」
仕事終わりの颯くんは私の向かいに腰を下ろした。

「木花の方から呼び出すなんて珍しいよな。何か注文した?」
「食欲無いからドリンクバーだけ」
「なんだよ。俺は食うよ?」
私は「どうぞ」の意味で頷く。

「木花もデザートでも食えば? いちごパフェとかさ」
「いらない。いつも言ってるでしょ、パフェは好きじゃない」
颯くんの中では私はずっと〝パフェの好きな女の子〟なんだよね。

しばらくすると、彼の注文したハンバーグが届いた。
彼はそれを食べる間、その日の病院での出来事や世間話をしていた。
心ここにあらずな私は、生返事で適当な相槌を打ってしまっていた。


「で、話って何? まあ聞かなくてもわかるけどな」
食後にコーヒーを飲みながら颯くんが言う。

「やっぱりわかってるよね。……櫂李さんの目のことだよ」
颯くんは珍しく重々しいため息をついた。

「木花。医者には守秘義務ってやつがあるから、お前には何も教えられない」
「わかってるよ、それくらい。だけど昨日彼に聞いたから」
「え? お前とは離婚したって聞いてるけど」

櫂李さんが颯くんには言ってあるんだと知って胸がズキッと痛む。
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